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干天の慈雨  作者: ゆうま
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安成晶と妹の手紙⑨

ケンの部屋からカー君の声が聞こえる

なんだかいつもより騒がしい


「じゃあさ、今からボクの相手してよー。ここがどんな店か知ってる?」


この店の服を着た女の子が扉に背を向けて立っている

どうせ雨に打たれてるのを見過ごせずに拾ったんだ

それをカー君が見つけて…って感じかな


「…春を、売るお店です」


2人ともなにも言わず静寂が流れる


「あはははっ」


俺は思わず笑った

3人の視線が俺に向けられる


「良いね。この子は俺が買う」

「ヤス」


咎められても気にしない

本人が良いと言えば良いんだから

例えどんな手段を使ってもね

それが「生活」をするために必要なことなんだ


「…ごめんなさい」


一瞬目が合った

店の服を着たまま、荷物も着ていた服も持たずに駆け出した


「ヤースー。ボクが買おうとしてたのになにしてくれんの」


苦言を言われてもしょうがない

俺だって引き留めたかった


「カー君は黙ってて」


ずっと男の子だと思ってた

でもあれは絶対に「なぎさくん」だ


念のためケンにいくつか質問したけどやっぱりなにも知らなかった

でも、絶対に、あれは「なぎさくん」なんだ


「あの子は俺が絶対に買う。どんな手を使ってでも買う」


―――やっと、見つけた




                    ***




「ケン、働くのは明日からなんだよね?」

「ああ」

「じゃあナギ借りるよ」

「あ、ああ…。当人が承諾するなら俺に止める権利はない」

「だって。行こうよ。この町を案内するよ」


俺が差し伸べた手に自分の手を乗せてくれる


「まるで夢を見ているようです」

「奇遇だね。俺もだよ」


ケンに振り向いて言った言葉をナギも同時に言っていた

それが確かに幸せだったときがあったことを思い出させた


「行ってきます」


でもその時間は思ったよりも短かった

ナギが珍しがった露店のイカ焼きを買ってあげて、美味しそうに食べる顔を眺めていた

美咲とそういう時間があったわけではない

ナギを美咲の代わりにしているわけでもない

ただ、この女の子を可愛いと思っていた


「ヤス、店での食事がある。あまり食べさせるなよ」


ケンが声をかけてきた

こんなところまで来て小言を言わなくても良いのに


「分かってるよ。ね?」

「はい」


良く見ると、うっすら汗をかいている


「ケン、急いでるの」

「ああ」


だったら早く行って

そんな俺の思いとは裏腹にちらりとナギを見て再度口を開く


「カー坊が自殺した。それを警察に知らせに行く」

「そう」


生気のない声で言ったナギの空いている手を包む


「大丈夫、きみのせいじゃないよ」


ナギの顔は明らかに青く、俺の声は届いていないだろう


「…場所は」


小さな声でされた問いかけにケンが答えようとするのを遮る


「行かない方が良い」

「そこを右に曲がった先にある青い屋根の建物だ」


言い終わるよりも先にケンに食べかけのイカ焼きを押し付けて駆け出す


「駄目だ!」


引き留めようと俺が伸ばした手はなにをも捕らえることが出来なかった

ケンは多分少し悪戯をするような気持ちなんだと思う

でもそれは間違いで、最低なことをした

それを言っている時間はない

とりあえず睨んでナギの後を追いかけた


カー君が塒にしている建物は、倉庫のような建物

まるで、学校の用具室を思い起こさせる建物

屋根の色まで同じだなんて、ナギに見せるわけにはいかない


「ナギ!待って!」


そう声をかけて追いかけるけど、追いつけない

聞こえているようにも思えない

右に曲がったとき一瞬足を止めた


「なぎさくん!」


そんな俺の呼びかけに応えず、ナギは再び走り出した


「―――――!」


言葉にならない叫び声が聞こえた

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