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干天の慈雨  作者: ゆうま
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始まりと死④

あの客が入った部屋の前

急に扉が開き、あの男が現れる

男は一瞬驚いた顔をしたが、すぐににやついた顔に変わる


「もう帰るわ」

「店の者になにか不手際がありましたでしょうか」

「いいや、楽しませてくれたよ。でも屍姦する趣味はないからさ」

「!」


男を押しのけて部屋に入る

そこには変わり果てたメイの姿があった


どうしてこうなった

俺の考えが甘かったのか


既に歩き出していた男の背中を蹴る

バランスを崩した男に跨り殴りつける

何度も、何度も、何度も


「主、仮にもお客だよ」

「うるせぇ!こいつは客じゃねぇ!人殺しだ!」

「…そうかい。メイ――」


そっと目を伏せる


「人望のある子だったんだな。最中にも何度も飲み物を持って来るヤツがいてよぉ」


ケタケタと笑う

振り下ろそうとした拳が止められる


「一応警察を呼んだ。なにをしても変わらない。だから、もう止めた方が良い。自分が傷付くだけだよ」

「なにしてんだヤス!カイ止めとけって言っただろ!」

「俺には無理だよ」

「なんでだよ!カイにメイのあんな姿見せるわけにはいかないだろ!」

「それを決めるのは他人じゃない。自分だよ」


後からならなんだって言える

でも今見たら駄目なんだ

メイの最後の願いくらい聞いてやれなくてどうする


「それを俺は知っている。だからカイを止めることは出来ない」

「結局お前も偽善者だったんだな」

「そうかもね。でも見るって選択をしたのはカイだよ」


駄目だ

駄目なんだ

メイが言ったんだ

だから頼む

間に合ってくれ


「お前誰だ!なにしてる!」

「あなた…カイ、ね。良かった、間に合って」

「どういう意味だ!」


カイに掴みかかられているナギは穏やかな笑顔だった

2人のすぐ横に横たわっているのはメイ

さっき見た悲惨な姿ではない

少し崩れてはいるが服をちゃんと着て、口紅と頬紅をつけている


「カイ、離してやれ」

「でも!」

「カイ」


仕方なくといった様子で手を離す


「誰ですか、こいつ」

「明日からここで働かせる。ナギだ」


ナギに目をやると元いた場所にはいなかった

メイの傍で音がして視線をやるとナギはそこにいた


「おやすみなさい」


穏やかにそう告げ、立ち上がる


「ナギ、大丈夫だよ。きみのせいじゃない」


足音も気配もなくやって来たヤスが静かに言う


「でも…」

「本当だよ。きみのせいじゃない」

「…はい」


慰めてくれたのは良い

助かった

俺が言ってもそんな返事はしなかっただろう

だが…何故ナギはヤスの言うことなら聞くのか

それなら何故買われることを拒否するのか


しかし当面の問題はこっちだ

どんな理由があろうと客を殴ったことはすぐに広まるだろう

雇っている子たちを大切にしている店は多くない

感情的になったと後悔することは絶対にない

だが、どうせなら殺してしまえたらと思う


「ケンさん、あなたに殺人は向いてないですよ」

「向き不向きなどあってたまるか」

「ありますよ。どんな下らないことにも、どんな下卑たことにも、どんな不道徳なことにも」

「それでも俺は…」

「このお店の人たちが大切なんですね。分かりました。では私が殺してきます」


穏やかな声のまま続けて言った言葉の意味が分からなかった


「待って!なにもきみが行かなくても」

「どうせ誰かにそのうち殺されますよ。そんなこと分かってます」

「じゃあ!」

「でもこの場で人を殺せるのは私だけです」


ドクンと心臓の音がした気がした

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