安成晶と妹の手紙②
「あれ、このノート…」
一冊だけ向きが違う
なんだろう
「ただの板書…じゃない」
一見ただの板書したノート
だけどなにか違う気がする
具体的になにが、と聞かれると分からないけれど
他のノートを見て確信する
基本鉛筆で書かれて、赤と青で重要なところが書き分けられている
線は定規で丁寧に引いてある
だけど向きの違ったこのノートは違う
パラパラと見ても青がない
赤が極端に少ない
線に定規が使われていない
赤で書かれた文字だけ拾ってみると――
そう、例えばまるで国語のノートのようにありふれた文章に波々線が引かれている
その横に『このとき主人公がいやがったのはなせか?』と書かれている
その文章の『いや』だけが赤で書かれている
『なぎさくんに色々なことを教えてあげてほしい
どうしてもいやなことでなければ、ひとつで良いからお願いを聞いてあげてほしい
なぎさくんを助けて』
赤字を拾って完成したのはこの3文だった
なぎさくんって誰
というか男
彼氏?
彼氏に会うために学校に行ってたの
――なにか、違う
違和感がある
そこで俺は黒字でも登場していた「なぎさくん」の文章も拾うとこにした
意味のないことかもしれない
だけどやってみなくちゃ分からない
結果は成果あり
なんとなく「なぎさくん」のひととなりが分かった気がした
一先ず彼氏ではなさそう
こういう風に残すんだから制約はある
全てを書いてあるとは思わない
周囲の文章に紛れさせるために表現を変えた部分もあるはず
これが全てではない
「まずは「なぎさくん」を探さないと」
ノートを持ったまま寝ころんだ
腕を伸ばしてほんの少しの運動
「…やっぱりおかしい」
普通並々線は文章の中の一部分だけ際立たせたいときや書き加えるときなどに使う
美咲もそういう風に使っている
でもこのノートには所々並々線が引かれているだけのところがある
「よし、そこも拾おう」
拾っている途中で俺は泣いた
美咲が「なぎさくん」との時間をどれだけ大切に思っていたのか
「なぎさくん」への罪悪感、好奇心
それらの感情が分かった
「美咲、願いは必ず叶えるよ」
美咲が「なぎさくん」という人物を意識したのは教科書を一緒に見たとき
つまりクラスメイトだ
学校へ行けばなにか手掛かりがあるかもしれない
急いで靴を履き玄関を開ける
「安成さんところの娘さん、自殺したんですってね」
「ええ、ここのお家少しおかしかったものね」
「でもそれだけじゃないのよ」
今すぐにでも行きたいのに出て行きにくい
近所の奥様の井戸端会議のネタになってしまうとは…
というかおかしいと思ってたなら少しは助ける素振りでも見せたらどうなんだよ
特別不幸だと思ってたわけじゃないし良いけど
「自殺した娘さんのクラスメイト、全員昨晩から帰ってないんですって」




