和咲と安成美咲⑪
あれから3ヶ月が経つ
ボスたちはいじめの相手を安成さんに変えた
それでも相変わらず陳腐な嫌がらせしかしない
体育大会の練習が始まって嫌がらせが増えた
それは単に機会が増えたからというだけだと思う
「先生、少し体調が悪いので保健室に行ってきます」
そう告げると姿の見えない安成さんを探した
ボスたちに嫌がらせされて来られないのかもしれない
中々見つけられず焦燥感が募る
走っているからなのか、それに追いかけられている気さえした
いる可能性を考えながらも見たくなくて後回しにしていた
その最後の場所へ着く
荒い息で少し錆びた鉄の扉を開けた
確かに安成さんはそこにいた
でもそれはもう安成さんではなかった
上から下げられたロープ
宙に浮いた足
力なく下げられている両手
足元にある大きなシミ
「や、すなり、さん…」
確かに僕は今なにか感情がある
でもそれをなんと表現して良いのか分からない
そんなときは、そう―――
僕はそっと安成さんの手を握った
「ねぇ、教えてくれるんじゃないの」
なにか言って
なにか答えて
お願い、笑って
生暖かく、少し硬くなり始めている
その物体から生気を感じるとこは当然ない
動くことも、言うことも、笑うこともない
「――どうして死んだの」
この場所を選んだことは勇気のいること
僕なら出来るだけ近づきたくない
だから、いる気がしていたのは…どうだろう
きみのことを少しは分かれたってことなのかな
「安成さん、きみは最後まで強かったんだね」
そのことは賞賛すべきことだと思う
でも
「僕には死ぬなと言っておいて、酷い人」
興味があるものがある間は死なないんじゃなかったの
もう僕に興味がなくなったってこと?
死ぬことくらい言ってくれても良かったのに
そう思ったけど、興味のない人間にそんなこと言わないか
僕は安成さんを独りにしたくないと思っていたんだよ
だからきみが望むなら、きみを殺すことだって出来た
きみじゃなくても、誰だって
きみが望むなら、殺した
ふらふらとした足取りで教室へ行く
そのことに意味はない
安成さんがいない世界で意味や価値のあることなんて、ない
教室の扉を開けた瞬間、どきりとした
僕の机の上に封筒があったからだ
『なぎさくんへ』
安成さんからの手紙…
最後の、言葉…
僕は震える手で封筒を開けた
『今でも、きっといつまでも、なぎさくんのことが好きだよ。勝手でごめんね。今までありがとう』
そうだよ、勝手だよ
いつまでも好き?
それならどうして僕を独りにしたの
どうして僕を殺してから死ななかったの
だって、僕はきみを裏切った
勝手に恐怖心を抱いていた
恨むべきだろう?
憎むべきだろう?
だったら殺して
安成さんに殺されて死にたい




