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干天の慈雨  作者: ゆうま
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和咲と安成美咲⑧

『放課後用具室に来てほしい』


恐らく隣人が書いたであろうその手紙に従って用具室のドアを開けた

そのとき、僕は「絶望」を実感した


それは他にも数人中にいたからだけじゃない

その中に安成さんもいたから


「ごめん、和。本当にごめん」


そして、隣人が泣いたから


「こんなことになるなんて思わなかった。でも今あいつに逆らうわけにはいかないんだ」


隣人の言うあいつがボスであることはすぐに分かった

だから隣人が詳しい話しは聞かされず脅されて利用されたこともすぐに分かった

それが隣人の「大事」か「大切」を守るためだということも


隣人はこれから起こることを理解しているはず

それでも止められない

助けられない

それは屈強そうな男が3人いるせいじゃないことくらい分かる


「泣かないで。今朝何人か挨拶してくれたの。それはアンタのおかげだよ。ありがとう」


ここもボスの掌の上だったらどうしようと思った


「そんなことでは償えない…」


だけど、どうやら違うようで安心した

隣人の本当の善意

それを受け取ることが出来ただけでも良かった


「アンタが今日稽古に遅刻した理由は絡まれている女性を助けたからだ。心当たりがある。私からお願いしておく」

「和…ごめん。ありがとう」


開けっ放しになっていた扉から隣人が出て行く

それを閉めたのは今朝挨拶をしてくれた内の女子2人だった


「そこに嘘がないと思えるほど楽観的ではないよ」

「そういうところがムカつく」

「いじめられてるくせになにスカした顔して毎日登校してるわけ」

「それが私の義務だから」


地域の孤児院で一番点数の良かった者

その者は初等教育を受ける権利を得ることが出来る

だけどこれは実質的には強制だ


他の点数の良かった者は免除があったりする

だけど、とても孤児院から出せる額ではない


期待の星


それは聞こえ良くその者を縛る

僕もそのひとりだ

いじめの標的にされやすいことくらいは誰でも分かっている

それでも初等教育はそれほど価値のあることなんだ


「アンタ親の顔も知らないんでしょ」

「それがなに。別に珍しくないでしょ」


ため息を吐かれてしまった


「アンタと話してると疲れるわ」

「じゃあもう良いか」


屈強そうな男がひとり、僕へ向かって歩いて来る

片手で両手首を持ち上げられ、手が迫る

なにが起きるのか分かった


「触るな!」

「どうせ売れるモン売って生活してんだろ。何回誰としようが変わらねぇよ」

「偏見だ。私たちはそんなことはしていない」

「私「たち」ってのは本当か?お前が知らないだけじゃないのか?」


…確かに

学校へ行っている間他の子たちがどうしているのか詳細には知らない

だからと言って今ここで断定することは出来ない


「知らないことは起きていないことと同じだ」


とんだ屁理屈だ

でもある意味で正しいと私は思っている

人は自分の知っていることしか知らない


「そんなにしたいなら私が相手をする」


安成さんのはっきりとした声が用具室に響いた

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