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干天の慈雨  作者: ゆうま
42/57

和咲と安成美咲⑦

違和感


その言葉だけがぐるぐる回っているような気分


「なぎさくん」


きゅっと抱きしめられる


「私のことで悩まなくても良いんだよ。大丈夫だから」


気持ちは当然伝わって来ない

違和感が募るばかり


気持ち悪い


「この時間だけが「私の時間」なの。だから来てくれるだけで本当に嬉しい」

「…どういう、意味」


違和感を気持ち悪いと思っているのか

気持ち悪いと思っているから違和感があるのか


どちらなのか分からなくなってきた


「きっと説明しても分からないよ。気付かないと思った?」

「…なにに」

「なぎさくんに感情と呼べるものがほとんどないこと。それを少なからず自覚してること」

「それなら僕は」


安成さんを助けようとするはずない

そう言おうとした


「なぎさくんはこの時間を本当に大切にしてくれてるんだね」


でもそれは安成さんの言葉に遮られる


「私はここでなぎさくんに色々なことを教えたはずだよ」

「…理解は共感から」

「それを最初に言ってくれるってことは少しは分かってくれてるんだ」


いつになく挑発的な態度が気になる

これからも僕にここに来てほしいならいつも通り穏やかに過ごすべき

なにか目的があるのか


「なにが当てはまるかも分からない、本当にどうして良いか分からないときは、」


きゅっと僕の右手を両手で包む


「こうして手を握って」


いつもの口調

それが言いたいだけならさっきまでのはなんだったんだろう


「分かった」


でも僕にはそれ以外の返事なんて出来るはずなかった

この1時間が大事

安成さんのことを大切にしたい

こんな状況でもその気持ちは変わらないから




                     ***




朝の挨拶が飛び交う教室

そこへ着いても僕はいつもなにも言わずに入って自分の席に座る

誰になにを言われることもない


「な、和さん」


うわっ

いきなり話しかけられた


「おはよう。どうしたの?」

「おはよう…ってだけだよ。わざわざ呼び止めてごめんね」

「ううん。ありがとう」


それから席へ行くまでの間

名前こそ呼ばれなかったけれど僕に挨拶をしてくれる人は数人いた


本当に隣人のあれは効果があったらしい

驚いた


だからだろうか

あのときの紙に書いてあったのと同じ字で書いてある紙

その紙の文字に特別疑問を持つことなんてなかった


『放課後用具室に来てほしい』


用件はなんだろう

疑問はそれくらい


今日屋上で安成さんに会えないなって

そう思って、どうして呼び出しに素直に応じるのか

そんな疑問は抱いた

だけどそれは紙に対しての疑問じゃなかったし、あまり気にしないことにした


だから用具室のドアを開けたとき、僕は「絶望」を実感した

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