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干天の慈雨  作者: ゆうま
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和咲と安成美咲⑤

「おい、和。お前逃げられるかもしれないのになにやってんだ」


足音が遠ざかったことを確認してから隣の席の男子が小さな声で尋ねた

席が隣になってからだから変な情でも湧いたのかな

可愛そう

助けやすいときなら助けてくれる子

僕からしてみればそれだけだった


「もう標的は変わったから」

「だからってわざわざ目立たなくても良いだろ」

「目的もなく行動するはずないでしょ」

「お前…なんでずっと黙っていじめられてたんだよ」


これだけで察したことは褒めたい

中等教育も受けるそうだから是非こういう人間に上に立ってもらいたい

でも多分無理だろうなぁ


だって助けようとしたってことは優しい

優しい人間は簡単に蹴落とされてしまう

騙されて、欺かれて、捨て駒にされてしまう

そしてそれを自分が愚かだったからだと認めてしまう


可愛そう


「推理してみれば」

「無理だね」


肩をすくめて周囲を見渡す

僕ら2人はクラスの注目を集めている

その視線を改めて確認することになんの意味があるのだろう

この返答の後の視線に意味があるのか

それが気になって尋ねる


「この状況で話しかけてきた理由が分からない」

「どう思う?」


ため息を吐くとどこからか紙が飛んできた

丸めてあるそれを開く


『今迂闊なことを言ってみろ。告げ口されて終わりだ』


分かっていなかったのかと思っていた

もっと短絡的なのかと思っていた

でもこれは質問の答えじゃない


再度どこかから飛んできた紙を開く


『この後他のヤツらが話しかけやすくするために決まってるだろ』


今度こそ質問の答え

でも僕は不服だ

今まで傍観していたヤツらと仲良くしろと

そう言っているのだから


『確かに主な標的は移った。でもお前がまだ射程圏内にいることを忘れるな。今の内に少しでも味方を増やせ』


味方を増やす…

仲良くしろとは言わない

思ったよりも勉強でない意味での頭の良いヤツらしい

それでいて優しいなんて

やはり是非上に立ってもらいたい人間だね

それならこんなところで油を売っている暇なんてないでしょ


ここで突き放す返答をすることは簡単

でもそれはクラス全員を拒否することになる

この隣人の勇気と優しさを無駄にしたくはない

それでいてかつ、この隣人を遠ざける方法はないか


「まぁどうでも良いや。でもありがとう」


これくらいかな


面倒くさがり

又は他人に興味がない

だけどお礼が言えるってことは悪い人じゃないかも


それくらいの感想を抱いてほしい

でもこの隣人はお見通しかもね

それにこれだと隣人を遠ざけられる台詞ではない


人と関わってこなかったツケがここでまわってくるわけね

上手い言葉が見つからない


「おう。可愛いところあるじゃん」

「うるさいっ」


わざとだと分かっていてもつい口を出た

世の中捨てたもんじゃないのかな

そんな風に思えた


それは「今」だけを考える安成さんといるときとは思えないことだった

この隣人と付き合っていけばもしかしたら

そう夢を見ることくらいは許してほしい

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