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干天の慈雨  作者: ゆうま
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始まりと死③

やかんがぴゅーと音を立ててお湯が沸いたことを知らせてくれた


「さ、これを注いだら出来上がりだよ」


用意されているカップは2つ

俺の分はどうした

立ち上がろうとしたとき目の前の机に飲み物が入ったカップを見つける

入っているのは麦茶だ

いつの間に


2人はその場で立ったまま紅茶を飲んだ

会話は特にない

飲み終えると流しにカップを置いて向き直る


「今夜は俺に買われてもらうよ」

「お断り致します」


これまでにないほどはっきりとした口調だ

声をかけようとするヤスを無視して俺の前に立つ


「先日は助けて頂きありがとうございました。お礼も言わず出て行き申し訳ありませんでした」


深々とお辞儀する


「探して頂いていた理由も知らず隠れていたこと、そのことでご迷惑をおかけしたこと、お詫び申し上げます」


この町は階段が多い

隈なく探すこと自体の難易度が高い

見つけられると思って探していたわけではない

しかし隠れていたということは逆効果だったわけか


「事情も説明せずに着せた俺が悪いんだ」

「そんなっ、」

「そうだよ、ケン。ケンはいつも説明不足なんだ」


言い返そうとしたが不毛なやり取りだと思い止めた

指摘通り俺は説明不足だと言われることが多い


「運が良かった方だ。店に連れてくる前にされてしまう子もいるし、何日も捕まえられてしまう場合もある」


言ってから怯えさせてしまうかと思い後悔した

しかしそんな心配は無用だった

少女は、ナギは、静かに微笑んだ


「そうでしたか」


ヤスはその反応を見てニヤリと笑う


「やっぱり今夜は俺に買われ」

「お断り致します」

「最後まで言わせてよ」


ヤスを無視すると俺に向き直る


「ここで働かせて下さい。助けて頂いたお礼と先刻の件についてのお詫びをさせて下さい」


なにを言っても聞かなそうだな

それに俺が拾ったんだ

この町で生きていく術を身に着けるまでは俺が面倒を見るべきだ


「分かった。ただし、この町のルールが分かっていない者を表に出すわけにはいかない」

「裏方を、という意味でしょうか」

「そうだ」


他に稼ぐ方法や場所があるのに、わざわざ身体を売りたい子なんていないだろう

この子には多分、向いていないだろうしな

世話係はカイに頼もう


「ケンさん」


考えていた者の声が聞こえて驚く


「なんだ」

「あの客室からメイの酷い声がします。飲み物を持って様子を見ようとしても扉を開けさせてもらえません」


泣き出しそうなカイの声

俺は扉を開けて駆け出した


「ヤス、カイを止めておいてくれ」


あの客が入った部屋の前

カイが言ったような声はしない

布が擦れる音が僅かに聞こえるだけだ

カイが嘘を言ったとは思えない

どういうことだ


急に扉が開き、あの男が現れる

男は一瞬驚いた顔をしたが、すぐににやついた顔に変わる


「もう帰るわ」

「店の者になにか不手際がありましたでしょうか」

「いいや、楽しませてくれたよ。でも屍姦する趣味はないからさ」

「!」


男を押しのけて部屋に入る

そこには変わり果てたメイの姿があった

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