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干天の慈雨  作者: ゆうま
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和咲と安成美咲①

目を伏せて、それでも逃げない

やはり助けもしない

そういうヤツが実行しているヤツよりも嫌いだ

なにを思ったのか、そいつは廊下の角を覗いた


「あ、先生」


小さなその呟きをその場の全員が聞き逃さなかった


「行こうよ」


そう言われて小さく頷く

そして最初に歩き出す


そいつはこのグループのリーダー

でも実質このグループを操っているのは違う人

私はその人を密かにボスと呼んでいる


「…助かった」


服を整えて廊下に出る

周囲にするのはあの団体の気配のみ


「まさか、ね」


まぁどうでも良いや

今から死ぬんだし


普段は立ち入り禁止になっている屋上

その鍵を預かったとき複製しておいた

複製と言っても粘土に鍵を押し付けて型を取って、その型を元に粘土で作っただけ

本当なら型に流し込めるものがあればもっと楽だったんだけど


「待って!」


いよいよ命綱なしのバンジージャンプ

そんなときに声をかけたのはさっきのグループのリーダーだった


「なに、安成美咲。邪魔しないで。意気地なしのくせに」


本当は分かってる

例えボスがいなくても安成美咲はいじめを止められない

それは彼女もまた学校、クラス、グループという小さな社会の一員でしかないから

弾き出されるのは誰だって嫌だ


「行かないで」

「それはどういう了見で?」

「助けられないこと、ずっと後悔してる。いじめが辛くて死ぬんじゃないんでしょ」


当たり前だ

私は死にたがり

むしろ死ぬ理由が出来たことで嬉々として飛び降りようとしている

大体、物を隠すとかペアを作るとき仲間外れになるように仕向けるとか

そんな陳腐で証拠の残らないようなことしかしてないじゃない

それが辛くて死ぬなんてくだらない


「私はあんたらみたいな陳腐なことしかしないヤツらに興味なんてないから」

「じゃあ私がそうじゃないって思ったら興味持ってくれる?」

「なにその誘導尋問」


呆れてため息が出る


「和さん、私も一緒に飛び降りる」


「…は?」


突飛過ぎて反応が遅れた

それにこの反応では相手のペースになってしまう


「私ね、疲れちゃった。名ばかりリーダーでいじめも止められない」

「後半は否定しないけど、それで死んで本当に良いの」

「否定はしてほしかったなぁ」


空を仰ぐ


「だって、もうなにも変わらない。なにも変えられない」


安成美咲と同じように空を見上げた

雲ひとつない快晴


「ただのガキになにが出来るって言うの」


確かに安成美咲は無力だ

でもそれは私だって、ボスだって、他のクラスメイトだって、同じだ

なんなら先生たち大人だって同じだ


「あんたが変えられることならとっくに他の人が変えている」

「…そうだね」


ふわりと微笑む


「それが分かっているならなにがしたいわけ」

「私が無力だって証明しに来たの」


意味不明


「知っている」

「でも具体性がないでしょ」

「今もないけど」


少し思案

それを待っている時点で気付いた

互いの視界の邪魔をしていた柵がなくなる

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