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干天の慈雨  作者: ゆうま
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昔話と死④

「ウチもこの町に来たのはねぇ、死のうとしてだったんだよ」


アルが?

想像出来ない


「ルイに見つかってねぇ「死ぬよりはきっと楽しいわよ」って店に誘われたのさ」


母さんの言いそうな台詞

でもそれで素直に拾われるような人間には思えないが


「強気な女。それが第一印象だった。でも近くまで来て手を差し伸べられたとき思ったのさ」


ため息を吐いて居直る


「強くてキラキラしているのにどこか寂しそうだってねぇ」

「だから大人しく拾われたって言うのか」

「逃げようと思えばいつでも逃げられる。そう思っていたのさ」


アルらしくない楽観的なものの見方だ

死のうとしていたからどうでも良かったのだろうか


「だからその寂しさを見つけられそうな人がいるか見に行ったんだよ」

「でもいなかった。というわけか」

「だからここに拾われることにしたのさ」


母さんはそれを分かっていたからアルと仲が良かったのだろうか

それとも自分が拾ってきた責任の様なものを感じていたのだろうか


「主、それでもルイは主を大事に思っていたよ」

「どうして分かる」

「ある日ルイが言ったのさ。賢を頼むって」

「――どういう意味だ」

「分からない。聞いてもそれ以上は言わなかったんだよ」


目を伏せて首を振る


「ただ、それはその日よりも2年以上前なんだよ」


母さんの性格的に2年も待っていられるはずがない

だから別の意味があると考えるべきだ

だが、材料がない


「主、悪かったね。守ってやれなくて」

「アルが謝ることじゃない」


…まさか


「だから例え1番街になってもここにいると言ったのか」

「ウチは義理堅いんだよ」

「アル、そんなことは気にしなくて良いんだ。行きたいところへ行けば良い」

「――じゃあ主が殺してくれるのかい」


また殺すとかそんなの

もううんざりだ


「ウチにも家族がいたことがあってねぇ」


黙って俯いてしまった俺を小さく笑って話し出す


「再婚した男との間に子供が出来て晴れて四人家族さ」


その口調には「晴れて」という言葉は似合わない

それにその先は大方想像出来る


「そんな状況で母親がウチに初めてくれた誕生日プレゼントはなんだったと思う」


聞いておいて聞く気がないのか、またすぐに話し出す


「キスツス・アルビドゥスの小さな花束さ」

「花言葉は――「死」「明日私は死ぬだろう」…ですね」


ため息を吐いて小さく頷く


「ただ日常を繰り返す日々にも飽きていたしそれも良いかと思ってねぇ」

「この世でたったひとり頼りにしていた相手からそう言われては仕方がないですね」


ナギの言葉に苦虫を嚙み潰したような顔をしながらも小さく微笑む


「だがねぇ、ここに来ても依存する相手が変わっただけだったんだよ」

「魅力的な人に出会えて良かったですね」

「ここまでの話を聞いてルイを魅力的だと言うのかい」

「では訂正します。アルさんにとって魅力的な人に出会えて良かったですね」


ふっと笑ってナギの頭を撫でる


「可愛くない子だねぇ」

「よく言われます」

「全く可愛くないねぇ」


視線の温かさ

それは店の目をかけている者に向けるそれだった

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