昔話と死②
「殺してりたいと思っても行動しないのが普通です。でもケンさんは殺した。それは何故か」
「なにかを守るために仕方がなかった。――だろう?」
「そうです」
俺以外が真実を知っているような口調で話しが進んでいく
アルがそういう話し方をするのは分かっている
ならナギは?
ヤスが言ったのか?
「…ケン、ナギはなにも知らないよ。ただ一般的なことを言っただけ」
アルもナギも、ため息を吐いて言うヤスを見ていない
ただじっと、俺を見ている
…それもそうかと納得した
ただ、おかしな子だと思った
この話の真実はおろか事情も知らないのに表情も顔色も変えずに聞いて
そして声色も変えずに発言する
それなのに「一般的なこと」を言う
おかしな子と言う以外になにかあるか?
「話を戻そうかねぇ」
そう言って居直り、ヤスを見る
「主はなにを守ろうとしたんだい」
「見ていたわけではないので正確には分かりませんが」
そう前置きをして一度小さく息を吐いた
「父親が母親を殺そうとしていてそれを止めるときに誤って殺してしまい、その後母親に襲われ抵抗して殺してしまった」
当時の状況から読み取ったのだろうが…
父さんが母さんを殺す?
どうして
母さんが俺を襲う?
どうして
「理由とか細かい状況とかはケンが思い出せば分かるはずだよ」
「ふふっ」
その場に相応しくない笑い声に注目が集まる
注目を集めることになったのは意外な人物だった
「この町は流れ者が大半で各々事情を持っている。そんなこと来た初日に分かりました」
薄く笑っていたナギがまた無表情になって俺を見据える
「でも死の話題はケンさんの周りにしかありません」
「…なにが言いたい」
「以前死に憑りつかれた町だ、という様な話をしましたが」
ねっとりとした視線で俺の顔を舐める様に見る
「死に憑りつかれているのはこの町ではなくケンさんなのではないですか?」
数秒の沈黙の後ヤスとアルが小さく笑う
「確かに、この町で死の話題が珍しくなくなったのは主の両親の件以降だねぇ」
「言われてみればそうだね。なんで気付かなかったんだろう」
なんで笑う
人が死んだんだぞ
「…お前らおかしいんじゃないか」
2人の笑いにナギが加わる
「なにを分かり切ったことを言うんだい」
「そんな分かり切ったこと、改めて言わなくても」
「誰もが分かり切っていることですよ」
同時に薄笑いで言われたそれに、言葉を失った
「流れ者なんてどこの町にもいますよ」
「だがこの町は流れ者としてすら他の町にいられなかった流れ者の集まり」
「どこかが決定的におかしくないはずなんてないんだよ」
予め決められた台詞を言う様な感じがした
だが、多分そうじゃないんだろう
この町に流れ着いた者が各々自覚することなんだろう
「特に死について「一般的」な言動が出来ない人が多いかもね」
そう笑顔で発言したのはさっきまで自分を殺そうとしていた人物と手を握り隣り合って座るヤスだった




