昔話と死①
「さて、説明してもらおうか」
俺の部屋のソファで対峙しているのはヤスとナギ
そして俺の隣にいるのはアル
「あの部屋のこと?それともあの状況のこと?」
「どちらも、と言いたいところだが後者はヤスとナギの自由だ」
「おや、良いのかい、主」
「2人の過去のことだ。踏み込む権利はない」
「そうかい」
一様に3人は小さく微笑んでいる
馬鹿だとか優しいだとか思っているんだろうか
「あの部屋のことを知りたいのか、そう言ったな」
「言ったね」
「ということは知っているんだな」
「知ってるよ」
ヤスの手をナギが握る
「大丈夫」
相変わらず表情の見えない声色だ
そして表情もない
「ありがとう」
優しく微笑みを返す
小さく息を吸うと俺の目をしっかりと見た
「知れば後悔する。でも知る以外にもう選択肢はないんだよね」
「ああ」
「分かった。話すよ」
ナギの手を握り返して大きく息を吸う
「一番奥の南側の部屋はケンの両親が亡くなった部屋だよ」
「あの血痕を見るに穏やかな死ではなさそうだねぇ」
「ええ、ナイフで殺されたんです」
「…どうしてそれをヤスが知っている」
俺の両親はある日突然帰って来なくなった
なんらかの事件に巻き込まれたとされた
だがこの町の人間だからという理由でろくに調べられることはなかった
それが殺された?
しかもあの部屋で?
俺が認識していなかったあの部屋で?
「殺された直後を見た」
「――っどうしてそれをっ!」
「主」
勢い良く立ち上がったがアルにいさめられ気付く
ヤスの表情は普段のそれとは全く違った
苦しそう、と表現すれば良いのだろうか
「殺したのがケンだからだよ」
――――は?
「ケンの両親を殺したのはケンだ」
「いやいやいや待て。どういうことだ。俺には」
「忘却は人間が使える唯一の魔法」
俺の言葉を遮ったのはヤスではなくナギだった
「ケンは思い出さないようにしてるだけで覚えてるはずだよ」
記憶喪失といった類の物とは違うということか
「心を守るために忘れたこと、なかったことにしてるんだ」
「人を殺したくて殺している人は少ないですから。ましてや自分の両親です」
アルやヤスなら俺が両親を慕っていたことを知っている
だから分かる
どうしてナギがその発言をする
「殺してりたいと思っても行動しないのが普通です。でもケンさんは殺した。それは何故か」
「なにかを守るために仕方がなかった。――だろう?」
「そうです」
俺以外が真実を知っているような口調で話しが進んでいく
アルがそういう話し方をするのは分かっている
ならナギは?
ヤスが言ったのか?
「主はなにを守ろうとしたんだい」
「見ていたわけではないので正確には分かりませんが」
そう前置きをして一度小さく息を吐いた
「父親が母親を殺そうとしていてそれを止めるときに誤って殺してしまい、その後母親に襲われ抵抗して殺してしまった」
ヤスの真剣な声が妙に響いた




