ロイと2人の悪魔④
「ロイってどんな意味なの?」
「赤って意味らしいです。生まれた町の博識な女性が教えてくれました」
「確かに、綺麗な赤い瞳が印象的だもんね」
「ここの人はこの赤い瞳をなんとも思わないんですか」
きょとんとした顔をされる
変な質問をしただろうか
「私、悪魔の子だって産まれ」
「良いの」
私の言葉を遮って静かに言う
「流れ者には事情が付き物だよ。それに、みんな自分のことで精一杯なの」
「じゃあさっきロイには王って意味があるって言った人はどうなんですか」
「どこにでもなんにでも例外はあるの」
すっと視線を逸らす
「じゃあ私を拾ってくれた人も例外ですか」
「うん。ケンさんは例外中の例外」
嬉しそうに笑う
「あの人はバカなんだ。それで、すごく優しいんだ」
「少しの事情も聞かず私を拾った時点でそれは感じていました」
くすくすと笑う
「ケンさん会ったばっかの子にまで…あっ!」
私の方を向いて言う
背後になにか?
…いや、なにもない
「初めて笑ったね!」
がばっと距離を縮めて言う
その顔は満面の笑みだ
「そうでしたか」
視線を逸らすと軽く謝罪して元の距離に座り直す
いや、正確には少し近くなっている
「――私さ、自殺する場所を探してここに来たの」
事情は話さないで良い
そう言ったさっきの言葉と相反する言葉になんと返事をして良いか分からなかった
「ここで心中を誘った人とロイは似てる」
「…その方は亡くなってカイさんが生き残ったということですか」
「ううん。しなかった。でもその子はもう死んだよ。客に殺された」
「!」
それまで海を向いていた視線が私の目を捉える
「それを聞いても表で働く覚悟はある?」
「………」
「すぐに答えられないなら止めた方が良い。今ならどこにでも行けるよ」
「だからこそ、どこにも行けない。ってこともあるんですよ」
そっと私の頬を触る
「悪魔の子って言葉が心の底まで染み付いてるんだね」
一筋の涙がカイさんの頬を伝う
「その言葉はロイをいじめるためのただの口実だよ」
分かっていた
でも海塚さんでも言ってくれなかった
思えば海塚さんはわざと言わなかったのかもしれない
自分で立ち向かう気力を奪う
それもあの時間の目的のひとつだったのだろう
「どこにも行けないなら、ここで終わりにするっていうのも手だよ」
「それは死ねということですか」
「ううん。ただ寝食を繰り返すんじゃなくて、生きるか死ぬか、考えるべきだって言ってるんだよ」
そっとカイさんの涙を拭う
「カイさんはその方が亡くなって考えた結果、生きることにしたんですね」
「うん。でもひとりが怖いなら――一緒に行こうか」
「それはカイさんの決意を」
ぐっと抱き寄せられる
「生きることは苦しいの。決めて分かった」
「だから死にたくなったんですか」
「それは違う。ただ、あの子に、メイに、会えない毎日が続くことを想像すると怖いの」
メイ――
拾ってくれた人が私を最初そう呼んだ
よほど似ているのか
「ロイは産まれた町の人が言うような悪魔じゃないよ」
「――では、カイさんだけの悪魔になりましょう」




