ロイと2人の悪魔③
意外にも噂の町には簡単に着いた
でもそれからどうして良いのか分からない
父からもらった金はもうすぐ底を尽きる
「―――メイ?」
知らない名前がどこかで呼ばれた
その視線が私に向いているような気がして顔を上げる
「…私ですか」
「ああ、知り合いに似ていたんだ。失礼」
男性は早口に言って背を向ける
「お兄さん」
直感的になにかを思って呼び止める
私が口に出す台詞などひとつしかない
「働き口はありませんか」
男性は少し考えたあと私の目をしっかりと見て問いかけた
「身体を売る覚悟はあるか」
「はい」
「なら、うちに来るか」
差し伸べられた手を私は迷わず取った
「この辺りで本名を名乗ったことは」
「ないです」
それどことか初めてまともに話した相手だ
「ここでは誰にも教えるな」
「ではロイと呼んで下さい」
「分かった」
こくりと頷いて小さく言った言葉にちゃんと返事をくれた
私が離そうとしない手をずっと繋いでいてくれた
それがすごく嬉しかった
「ただいま」
「おかえりなさい」
「おや主、また拾ってきたのかい」
「ああ」
「ロイです。よろしくお願いします」
小さくお辞儀をする
第一印象は大切だ
「王…ねぇ、こんなところまで来て王を名乗るのかい」
「どういう意味ですか?」
店の誰かがした問いかけに嫌な笑い方をした
ロイにそういう系の意味があるのだと、分かった
「アル、止めろ」
静止を聞かず続ける
「ロイはフランス語で王、王に相応しいって意味なんだよ」
周囲がざわつく
そりゃそうだ
流れ者の町だと知って滞在している
それなら自分たちが「世間が言う普通」と違うことは分かっているはず
それなのに王って
「違います」
海塚さんはこの意味を知って私をそう呼んでいたのだろうか
それとも本当に私に教えた意味で呼んでいたのだろうか
「なにが違うんだい」
「言っても無駄だよ」
背後から聞こえた声の主にその場の全員の視線が集まる
「私はカイ。よろしく」
差し出された手を握り返すとその手をそのまま引いて歩き出す
「この町に来たばかりなんでしょ。案内するよ」
「でもそろそろお店を開ける時間なのでは…」
「今日は休みなんだ。だから大丈夫」
ちらりと私を連れてきた男性をを振り返る
「カイ、あまり連れ回すなよ」
それだけ言って私には小さく頷いた
「はーい」
軽い返事を返す
そして駆け出した
走って、走って、走った
「カイさん、どこへ行くんですか」
「海だよ。見たことある?」
「ないです」
「綺麗だよ」
そう言って笑ったカイさんの笑顔は綺麗だった
「着いたー!久しぶりだなー」
元気に言われた前半の言葉
そのせいで後半の少し憂いのある声が際立った
誰かとの思い出の地なのだろうか
だったら私が邪魔をしては
「綺麗だね」
振り向いて私の目をしっかり見て言った
なんだか見透かされているような気がしてしまった
それで、素直に返事をした




