ロイと2人の悪魔①
「なにガンつけてんだよ!」
「赤目の悪魔は近づくな!」
近所の同年代の子供には幼少期からこの扱い
12にもなれば流石に慣れた
実際はお前らなんて視界に入れてもいない
だけど言い返さない
どうせ負けるから
私には味方がいないから
「言い返さねぇのかよ」
「やっぱつまんねぇヤツ。行こうぜ」
あと1ヶ月で初等教育が終わる
比較的裕福な地域では初等教育が義務化されている
その中でも中流の家庭に産まれた私は普通なら中等教育まで受けさせてもらえるだろう
私が普通なら、の話だ
この産まれ持った赤目のせいで家でも疎まれている
そんな私が中等教育を受けさせてもらえるとは思えない
どうなるのか、想像はつく
ではどうするのか
答えは至って簡単だ
「捨てられる前に捨てる」
家を、家族を、捨てる
どうせその内ボロ雑巾の様に捨てられるんだ
金目の物を持って逃げるんだ
風の噂で聞いた、流れ者の町へ行く
「ロイ」
2人だけの秘密の場所へ行くと海塚さんが優しく微笑む
海塚さんだけは私にこうして普通に接してくれる
この場所でだけだけど
でもそれは仕方のないこと
だって外で普通に接すれば海塚さんも私と同じ様なことになる
「海塚さん、私決めました」
「家を捨てるのね」
「はい。どうせなので金目の物を持って行ってやろうかと」
「そう。寂しくなるわね」
優しく頭を撫でる
「行く場所は決めているの?」
「流れ者が集まる町があるそうです。そこへ行きます」
「そう。そこで上手くやっていけると良いわね。影ながら応援してるわ」
「ありがとうございます」
それから少し他愛のない話しをした
軽く別れの挨拶をして秘密の場所を出ようと扉を開ける
「ねぇ」
開けた後に話しかけてくるなんて珍しい
余程大事なことなんだろう
「はい」
「今度会うのは決行の日にしない?」
「分かりました」
そう遠くない内に決行することを分かっているのだろう
ただそう思っただけだった
***
「ロイ」
私が秘密の場所を訪れたのは3日後のことだった
約束をしたわけではないのにいるのはどうして
まさかあれから毎日待っていたの
「今日決行するのね」
「いや、ちが――」
「大丈夫よ、誰にも言ってない」
会話が強引に進んでいく
今日は家にいる人数の多い日
海塚さんとの約束がなくてもそういう日はこの場所で時間を潰している
ただそれだけ
今日ここに来た理由はただそれだけ
「それは信頼してます。だけど今日は」
「大丈夫よ。きっと上手くいくわ」
どうして
脅迫じみたなにかを感じる
そしてどうしてか、私はそれに逆らえない
それは私が逆らうということをどこかへ置いてきたからか
それとも恐怖を感じているからか
もっと違うなにかなのか
今日は無理だと分かっている
そのはずなのに
「…はい」
頷いてしまった
「長話をすると別れが惜しくなってしまいます。もう行きますね」
長居は禁物だと、自分の中の警報が鳴っている
「…そう」
「さようなら。ありがとうございました」
「さようなら」
最後に見せた優しいいつもの微笑みにすら恐怖を感じた
その意味が分からず私は速足でその場を去った




