表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
干天の慈雨  作者: ゆうま
26/57

ロイと2人の悪魔①

「なにガンつけてんだよ!」

「赤目の悪魔は近づくな!」


近所の同年代の子供には幼少期からこの扱い

12にもなれば流石に慣れた


実際はお前らなんて視界に入れてもいない

だけど言い返さない

どうせ負けるから

私には味方がいないから


「言い返さねぇのかよ」

「やっぱつまんねぇヤツ。行こうぜ」


あと1ヶ月で初等教育が終わる

比較的裕福な地域では初等教育が義務化されている

その中でも中流の家庭に産まれた私は普通なら中等教育まで受けさせてもらえるだろう

私が普通なら、の話だ

この産まれ持った赤目のせいで家でも疎まれている

そんな私が中等教育を受けさせてもらえるとは思えない


どうなるのか、想像はつく

ではどうするのか

答えは至って簡単だ


「捨てられる前に捨てる」


家を、家族を、捨てる

どうせその内ボロ雑巾の様に捨てられるんだ

金目の物を持って逃げるんだ

風の噂で聞いた、流れ者の町へ行く


「ロイ」


2人だけの秘密の場所へ行くと海塚さんが優しく微笑む

海塚さんだけは私にこうして普通に接してくれる

この場所でだけだけど

でもそれは仕方のないこと

だって外で普通に接すれば海塚さんも私と同じ様なことになる


「海塚さん、私決めました」

「家を捨てるのね」

「はい。どうせなので金目の物を持って行ってやろうかと」

「そう。寂しくなるわね」


優しく頭を撫でる


「行く場所は決めているの?」

「流れ者が集まる町があるそうです。そこへ行きます」

「そう。そこで上手くやっていけると良いわね。影ながら応援してるわ」

「ありがとうございます」


それから少し他愛のない話しをした

軽く別れの挨拶をして秘密の場所を出ようと扉を開ける


「ねぇ」


開けた後に話しかけてくるなんて珍しい

余程大事なことなんだろう


「はい」

「今度会うのは決行の日にしない?」

「分かりました」


そう遠くない内に決行することを分かっているのだろう

ただそう思っただけだった




                     ***




「ロイ」


私が秘密の場所を訪れたのは3日後のことだった

約束をしたわけではないのにいるのはどうして

まさかあれから毎日待っていたの


「今日決行するのね」

「いや、ちが――」

「大丈夫よ、誰にも言ってない」


会話が強引に進んでいく

今日は家にいる人数の多い日

海塚さんとの約束がなくてもそういう日はこの場所で時間を潰している

ただそれだけ

今日ここに来た理由はただそれだけ


「それは信頼してます。だけど今日は」

「大丈夫よ。きっと上手くいくわ」


どうして

脅迫じみたなにかを感じる


そしてどうしてか、私はそれに逆らえない


それは私が逆らうということをどこかへ置いてきたからか

それとも恐怖を感じているからか

もっと違うなにかなのか


今日は無理だと分かっている

そのはずなのに


「…はい」


頷いてしまった


「長話をすると別れが惜しくなってしまいます。もう行きますね」


長居は禁物だと、自分の中の警報が鳴っている


「…そう」

「さようなら。ありがとうございました」

「さようなら」


最後に見せた優しいいつもの微笑みにすら恐怖を感じた

その意味が分からず私は速足でその場を去った

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ