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干天の慈雨  作者: ゆうま
22/57

行方と死⑥

「―――メイ?」


階段に座り込んでいる女の子に思わず声をかけた

そうでないことは分かり切っているはずなのに

あまりにも出会った頃と似ていた


「…私ですか」


俺の声に顔を上げた女の子が尋ねる


「ああ、知り合いに似ていたんだ。失礼」


早口に言って早々に背を向けた

状況だけではない

雰囲気も声も似ている


「お兄さん」


同じ呼び止め方

変に結びつけるな

良くある呼びかけ方だ


「なんだ」

「働き口はありませんか」

「―――」


同じ問いかけ


「身体を売る覚悟はあるか」

「はい」

「なら、うちに来るか」


俺も同じ問いかけをした

そして返された返事に手を差し伸べる

その手を取る


「この辺りで本名を名乗ったことは」

「ないです」

「ここでは誰にも教えるな」


メイと同じ様にこくりと頷く


「ロイと呼んで下さい」

「分かった」


手を取ったまま店まで歩いた

その点はメイと違った

だが重ね過ぎるのは禁物だし、2人に失礼だ

早々に違った点があって良かった


「ただいま」

「おかえりなさい」

「おや主、また拾ってきたのかい」

「ああ」

「ロイです。宜しくお願いします」


小さくお辞儀をする


「王…ねぇ、こんなところまで来て王を名乗るのかい」

「どういう意味ですか?」


欲しい問いかけをもらい満足そうに笑う

そして、嫌な笑い方をした


意味は分からない

でも言わせてはいけない

そう直感的に思った


「アル、止めろ」

「ロイはフランス語で王、王に相応しいって意味なんだよ」


周囲がざわつく

この町の者たちは皆自分のことをはぐれ者だと思っている

だから王なんて

でも多分違う意味だ

そして、王という意味があることを知らなかった


「違います」

「なにが違うんだい」

「言っても無駄だよ」


俺の背後から聞こえた声の主にその場の全員の視線が集まる


「私はカイ。よろしく」


差し出された手を握り返す

カイはその手をそのまま引いて歩き出す


「この町に来たばかりなんでしょ。案内するよ」

「でもそろそろお店を開ける時間なのでは…」

「今日は休みなんだ。だから大丈夫」


ちらりと俺を振り返る


「カイ、あまり連れ回すなよ」


それだけ言ってロイには小さく頷いた

顔や口調は全く違うが雰囲気と声がメイと良く似ている

多少心配ではあるが大丈夫だろう


「はーい」


軽い返事を返すと歩調を速めて町へと消えて行った


「良いのかい」

「表で雇うにしても裏方の仕事を知ってもらう必要はある。しばらくはカイに任せる」

「2人一緒に教えられるほど器用な子ではないと思わないかい」

「しかも目的も違う」

「分かっているんじゃないかい」


そっと頭を撫でる


「9番街の色屋のお姉さんはみんなのことが可愛いんだな」

「坊ちゃん、最年長だって馬鹿にしているのかい」


メイと同じで照れ屋な子――いや、人だ

俺が物心ついた頃からここの店の表で働いている

ロイに不必要なことを強く言ったのもカイを思ってのことだろう


「…多分、ヤスとナギはもうここには来ない」


互いに分かり切った質問の回答を飛ばし、話を先に進めることにした

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