行方と死⑤
「美咲が教えたことの証明なら俺が手伝うよ。きっと美咲もそれを含めて色々なことを教えてほしいって書いたんだろうし」
少し迷ってヤスの手に手を伸ばす
「待て」
俺の声だけが妙に響いた気がした
それは場違いだと言われているようで不愉快だった
だがそんなことを気にしている場合ではない
ヤスは10年前誰かを探していた
そして、今にも誰かを殺しそうな雰囲気だった
探していたのは間違いなくナギだ
ヤスが殺したいのは自分だからナギを殺すことはない
そうカイは言っていた
だが全く可能性がないわけではない
それはカイの感想であり、事実ではないからだ
そしてなにより心配だ
この2人が、この2人の顛末が、心配だ
「ケン、10年前俺がこの町に来たときのこと心配してる?」
「当たり前だ」
薄く笑うヤスにイラつきを覚える
あのとき俺が思っていたこともお見通しというわけか
ムカつくやつだ
「ヤス、お前全て証明出来たらナギを殺すつもりなんじゃないのか」
感情に任せて強く言ってしまう
でもヤスはそれを後悔させない
「そんなつもりはないよ」
大きなため息を吐く
それで怒りを募らせてしまう
ため息を吐きたいのはこっちの方だ、と
「だけど未来のことを証明するのは不可能だからね」
「屁理屈を…」
「それでも良いです」
そう言ったナギは降ろされてしまったヤスの手を両手で包んで掴んでいた
「元々証明して死ぬつもりだったんです。だからそれでも良いんです」
「死に怯えて生きていくのか」
「どんな人だっていつ死ぬのか分かりません」
「また屁理屈を」
ため息を吐くとナギは少し肩をびくつかせる
そして小さな声で語り始めた
「…それに私は、安成さんに「死なないで」と言われて、それに頷いてしまったから」
自分が握ったヤスの手をじっと見る
「だから「死なないという選択」をしているだけです。それを「生きている」とは思いません」
…だからヤスは一緒に「生きよう」ではなく「いよう」と言ったのか?
相手が死にたがりだと知っているから
「生きる」と「死なない」は違うから
なんだこいつら
なんかもう面倒くせぇ
死ぬとか生きるとか
なんでそんなことを考えなくちゃいけないんだ
いつ死ぬか分からないのは誰だって同じ
それは分かる
でも今からそんなに真剣に考えなくちゃいけないのか
俺には分からない
「好きにしろ」
背を向けて歩き出す
ただ、ひとつ言い忘れたことを思い出して振り返る
「ただし、店の評判が落ちる様なことはするなよ」
返事も聞かずに歩き出してまた思い出したことがあった
だけどもう本気でどうでも良くて引き帰すことはしなかった
警官がどうにかするだろ




