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干天の慈雨  作者: ゆうま
18/57

行方と死②

「ケン、急いでるの」

「ああ」


ちらりとナギを見て再度口を開く


「カー坊が自殺した。それを警察に知らせに行く」

「そう」


ナギの空いている手を優しく包む


「大丈夫、きみのせいじゃないよ」


ナギの顔は明らかに青い

そんな顔をするならあんなことはするべきではなかった

そう思うのは俺だけだろうか


「…場所は」


小さな声で問われた


「行かない方が良い」


答えようとしたがヤスに遮られる

ヤスが何故ナギに優しくするのかは分からない

時折「きみ」と呼ぶ理由なんて分からない

意地悪をしたくなった


「そこを右に曲がった先にある青い屋根の建物だ」


言い終わるよりも先に俺に食べかけのイカ焼きを押し付けて駆け出す

落としたり放ったりしない辺りある程度冷静なんだな


「駄目だ!」


引き留めようとヤスが伸ばした手はなにをも捕らえることが出来なかった

キッと俺を睨んで駆け出す

ナギに関してヤスは感情的になりやすい

案外冷静でないのはヤスの方か


急ぎ足で警察へ行き事態を伝えると意外とすぐに動いてくれた

だが他の緊急事案の為に自転車すら出す気がないらしい

一番若い警官がひとり、徒歩で行くことになった


カー坊の塒が見えるところまで行くとその前で蹲っているナギと傍にいるヤスが見えた


「あの2人が署に来る道中に会った2人ですか」

「そうです」

「扉が開いているようには見えませんが…なにをしているのでしょう」


そんなもの俺だって知るか


「さぁ女の子の方は最近やって来たので性格も良く分かりませんし」

「そうでしたか」


近くまで行くとほんの少し扉が開いているのが分かった

扉を覗くとカー坊はまだ宙に浮いたままだ


なにか聞こえると思って耳を澄ませるとナギが小さな声でごめんなさいと繰り返していた

そんなナギの隣でヤスはただ待っていた

ヤスを見ると頷かれた

これは俺の普段通りで良いということだろうか


「ナギ、どうした」


勿論声をかける


「私のせい…私のせいだ…」


視界の中心には確かにカー坊がいる

でもどうにもカー坊を見ているようには見えない

メイのときもそうだった


「そうかもしれないな。少なくともきっかけを作ったのはお前だ」


肩をびくつかせる


「でも選択をしたのはこいつだ。そうだろ」

「でも…もし私が堂々と助けていれば、もし死のうとしたのがあのときあの場所じゃなかったら、もし教科書を忘れなかったら、もし」


死のうとした?

教科書?

なんの話だ


「僕が殺していれば」


殺す…?!


「ナギ」


ヤスが「きみ」と呼ぶから

だから固有名詞を使うことを避けていたが言っている内容が良く分からない

それに一人称が


「安成さん」


震えた声で小さく誰かを呼んだ

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