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干天の慈雨  作者: ゆうま
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行方と死①

「9番街の主さん、さっきカー坊がふらふら歩いてたけど大丈夫なのかい」


馴染みの店で買い出しをしていると店主に声をかけられた

確かにカー坊は俺の店以外に行かないらしいし親しい人間もいない

だからと言って俺だって親しいわけではない

言われても困る


普段の俺だったらそう思って次店に来たときにでも、と考えただろう

だがナギを殺そうとした後のことだ

気にはなってしまう

ここで首をつっこむから馬鹿だと言われるのだろうか

でも聞いた以上放っておくことなんて出来ないだろ


「様子を見てみます」


そう返事をして店を出る

カー坊が塒にしている倉庫の様な建物の前に立つ

全く音がしない

今はいないのだろう


そう思って引き帰そうとした

だがなんとなく嫌な予感が拭えず少し錆びた鉄の扉を開けた


「カー坊!」


上から下げられたロープ

宙に浮いた足

力なく下げられている両手

足元にある大きなシミ


嫌な予感は当たってしまっていた

恐らく既に息はしていない

店を去ってその足で…


周囲を見回すと数枚の紙があった

『待つのはもうつかれた。ごめんね、鏡花』

『ボクは死について分かってなかった。それが分かっただけでもよかったと思う。それでいい』


この鏡花と書かれた者がカー坊が殺されたかった者だろうな

見られないことが分かっていても最後に遺したのがその証拠だろう

カー坊にとってなにより「大切」なんだろう


死について分かってなかったって過去形なら、分かって死んだのか?

多分違う

でも、じゃあ、なんで


『ナギ、ありがとう。ボクはボクのことしか考えずに死ぬ。優しいのはナギの方だね』


この手紙は先刻の礼も兼ねているのだろう

あのときナギには死ぬ気があった

カー坊のために、死ぬ気があったんだ

それを優しさと言って良いのかは分からない

けれどカー坊がそう思うならそれで良いかとも思う

矛盾しているだろうか


『ケン、ボクはケンのことがきらいだよ。だって、この町で生きることも死ぬことも考えず、優しさを持って毎日をそれなりにおだやかにすごせる。それは才能だと、ボクは思うから』


…これは、褒められているのか?貶されているのか?

まぁどちらでも良いか

死について考えたことがある者は皆俺のことをこう思っているのかもしれない

そうじゃないかもしれない

ヤス辺りは思っていそうだな


「さて、警察を呼ぶか」


降ろしてやろうかとも思った

だが意味のないことだ

警察にいらぬ疑いをかけられない為にもうしばらくこうしてもらっていよう


そう思い警察に向かう道中ある人物を見かけた


「ヤス、店での食事がある。あまり食べさせるなよ」


ナギにイカ焼きを買い与えているヤスだ

妙に幸せそうな顔をしているような気がする


「分かってるよ。ね?」

「はい」


あまり表情に変化はないが美味しそうに食べているのだと分かった

くどくど言うことでもないし急ぐ

小言はこれくらいにしておいてやるか


「ケン、急いでるの」

「ああ」


ちらりとナギを見て再度口を開く


「カー坊が自殺した。それを警察に知らせに行く」

「そう」


ナギの空いている手を優しく包む


「大丈夫、きみのせいじゃないよ」

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