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干天の慈雨  作者: ゆうま
16/57

メイとカイ④

「今日から雇う。カイだ」


なにしてんの!


「宜しくお願いします」


宜しくって馬鹿なの


あのときおにぎりを作ってくれた人はもういない

ケンさんが町から出した


この9番街の色屋では軍資金が貯まった子は出て行ける

軍資金が貯まらないと出て行けないのはただ単にケンさんが心配性なだけ

どの店だって出そうと思えばいつだって出せる

出す店主は滅多にいないけど

こんな暗黙のルールがあるのは9番街の色屋くらい


馬鹿な店主だと思う

だけど優しい人だ

だからせめてこの店にしてくれて良かった

そう思うしかない


「はじめまして、カイです」


そういう設定

別にどっちでも良いけど


「メイ」


けど顔見たらどうしたら良いか分かんなくなってすぐに奥へ入った


「メイはちょっと無愛想で言葉数少ないけど面倒見は良いから」

「はい」


聞こえてる

カイも「はい」じゃないよ

も~~~


部屋に入って少しすると扉の向こうに気配がした


「カイだよ。入って良い?」

「説教、始まっても良いなら」


躊躇なく扉が開いて駆け寄ると抱き着かれる


「また会えたね」

「だから説教」

「いくらでも聞くよ。メイの話し、聞かせて」


それは説教とは違う気がする

まぁもう来てしまったんだし仕方がないか


カイの身体にそっと手を回す


「また会った」


カイは嬉しそうに笑った




                   ***




「軍資金って具体的にどれくらいなの?」

「知らない。多分ない」

「じゃあどうやってこの町を出るの?」

「働き方と普段の金遣いを見て店主が声をかける」


出て行けと言われるように思うかもしれない

だけどそうじゃない

だって、この町には「幸せ」がないから


「メイはどれくらいここにいるの?」

「3年」

「出て行った人は大体どれくらいで出て行ったの?」

「私の知る限り4年半が最短」


なんで出て行くことの質問ばかりする

それなら来なければ良かったのに


「メイは軍資金が貯まったら出て行くの」


―――そんな


「そんな寂しそうな顔で言わない」


そんな顔で言われたらそのつもりだなんて言えない

カイが来たから迷ってるなんて悔しくて言えない


「そのときにならないと分からない」

「それなら、一緒に出て行こう」

「なんで」

「メイが好きだからだよ」


屈託のない笑顔で言われても困る

困る

嬉しいから困る


「この辺りから出たら、お互い本名を教え合おう」


手を握ってじっと目を見て続ける


「それで、呼び合おう」

「なんで」


なんて返って来るかなんて、大体想像がつく

それでも問うという選択をしたのは

それは

聞きたかったから


「メイが好きだからだよ」


同じ回答

同じ言葉

屈託のない笑顔


きっとこれから何度も言ってくれる言葉ではない

それを聞きたくて

聞けたことが嬉しくて


それはもう既に、カイの魅力という魔法にかかっていたからかもしれない

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