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干天の慈雨  作者: ゆうま
15/57

メイとカイ③

「私さ、流れ者なのに身軽だって思ったでしょ」


突然流れの変わった会話

でもここで嘘を吐いても意味がない

それに気付かれる


「うん」

「そういう生き方してきたんだ」

「止めた方が良い」

「自分を大切にとかそういう話しなら聞き飽きたよ」

「違う」


どうしてこういうときだけ察しが悪いの

言わせちゃいけない


「待って。聞いて」

「この辺りで暮らすなら色屋で働いた方が良さそうだね」

「駄目」

「どうして?」

「もう出られない」


この町で色屋に入ればもう他の町へは行けない

例え親が死んでも出られない

だからこの言葉は言わせちゃ駄目だった


覚悟を決めた人間とそうでない人間を嗅ぎ分ける能力を侮ってはいけない

このままこの辺りにいさせてはいけない


「おにぎりは別のところで食べて」

「どうしたの?」

「早くこの辺りから出る。出来るだけ遠くまで案内する。早く」

「なにかマズいことでも言ったみたいだね」


そう

言っちゃ駄目なことを言った

覚悟を決めちゃ駄目だった


「ねぇ、人を殺したことってある?」


唐突な質問に少しイラつく

だけどカイはそんな私を無視

普通の会話をしているみたいに返答を待っている

少し真剣で少し寂しそうな

そんな雰囲気はあるけれど、あまり変わらない態度


「ない。ないから早く」


私が焦って言っても全く立ち上がる気配がない


「殺したいって思ったことは?」

「死んでくれたら良いなくらいはある。さっきからなに」


質問の意図が分からない

会ったばかりの人にするような質問じゃない


「私―――自殺する場所を探してここまで来たの」


だからな


「まさか」


明るい笑顔を向けられる


「逃げられないならここで死のうかな。海、綺麗だし」

「逃げられる可能性の方が高い。だから急いで」

「逃げられなかったら死ねないんでしょ」

「~~~~っ」


言葉にならないなにかが込み上がる

こんなのは初めてでどうして良いか分からない


「――一緒にどう?」


ふわりと手を差し伸べられる

その手を取って立ち上がらせると駆け出す


「あー、おにぎり…」


膝の上に置いていたおにぎりは食べ終えていた1個を除いて全て砂の上に転がった

でもそんなのはどうでも良い


生きてほしい

幸せじゃなくたって良い

死ぬときに悪くなかったなって

それくらいできっと丁度良い


「この先の大通りに出たら北に向かって。交番がある。旅行者で分からずにこの辺りに来て襲われたって言えば数日は保護してもらえる」

「もう会えないの」

「会えない」


そっと、ふわりと、距離を縮めて、キスをされた

抱きしめられた


「ありがとう」


言って早々に背を向け走り出す


きっとあのありがとうには色々な意味があった

その全てを分かるほどあの子のことは知らない

けれど、カイは、私の意図を組み取って尊重してくれた

お礼を言うのは私の方だ

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