メイとカイ②
「あー!塩の匂いがする!もしかして近くに海があるの?」
「ある。遠回り。まず店」
「はーい」
約束した通り店に着くまでさっきのことは一切口にしなかった
「ただいま戻りました」
「おかえりってどうしたの」
「懐かれた。借りがある。腹ペコおてんば娘。なにか作ってほしい」
「分かった。好き嫌いは?」
「食べ物ならなんでも食べます!」
ケンさんは今日日中いない
今日私がこの町の外への買い物に行ったのはそれが主な理由
というわけで勝手にケンさんの部屋で待つ
どういう理由かケンさんの部屋に入ってから特に大人しい
出窓からは割と良い景色が見える
だけど少し遠くから一度見ただけでそれ以降近づかない
ソファに大人しく座っている
滅多に動かない
「お待たせ。おにぎりにしたから外で食べて来なよ」
「ありがとう」
「中は梅と昆布だから期待しないでね」
「ありがとうございます」
受け取って驚いた表情をする
「こんなに大きなおにぎりが6つ…!お金…そんなには…」
「大丈夫。これくらいなら誤魔化せるから」
「そこまでしてもらうわけには」
「メイがさっきあなたに借りがあるって言ってたでしょ。それで作ったんだからもらうならメイからもらうわ」
ちらりと私を見る
「今日の買い物のお釣りに足す。馬鹿だから分からない。馬鹿だから」
「ははっ、店主さんのこと好きなんだね」
なんでそうなる
別に良いけど
この子には関係ない
「海」
「うん!」
もう一度おにぎりのお礼を言うと部屋を出る
来たときとは別の道を通って町の案内をする
「海ー!初めて見た!」
そんなにはしゃがれるとなんだか嬉しくなってしまう
「メイ」
振り返って名前を呼ばれる
その笑顔が眩しい
「綺麗だね」
「うん」
隣に腰掛けるとおにぎりを取り出す
「本名?」
「違う」
「私のことはカイって呼んで」
なんとなく本名を名乗らないことは分かっていたらしい
「カイ」
「なに?」
「この辺りで生きていくの」
「しばらくはそうしようと思ってるよ」
私は今18歳で、カイはどう見ても同じくらいの年齢
それで流れ者をしている?
この身軽さで?
「それならあの町のこと。色屋のこと。知っておいた方が良い」
「教えてくれるの?」
「あの町は。簡単に言えば、少し差別みたいなのがある。特に色屋で働く者には強い」
「区別に少しの軽蔑ってところ?」
「そうかもしれない」
勘の鋭い子
「色屋は。エッチなことが最後まで出来るお店」
「この辺り独特の言い方なのかな。聞いたことなかったよ」
「だと思う」
多分初めて聞いた時点でどういう感じの店なのかは気付いてたんだろうな
「あの町以外にも色屋はある」
「9番街っていう言い方があの町独特ってこと?」
「そう。数字が大きい方が…高級」
「落ちぶれたって言ってたね」
「前は12」
たったの3つ
されど3つ
それに1桁か2桁かの違いは大きい
「今一番大きな数は?」
「17だけど全て揃ってない」
「じゃあ前は上流の下の方、今は中流の上の方って感じ?」
頷く
「私さ、流れ者なのに身軽だって思ったでしょ」
突然流れの変わった会話
でもここで嘘を吐いても意味がない
それに気付かれる
「うん」
私は正直に、静かにそう返事をした