メイとカイ①
「あれ、9番街のメイちゃんだ。今日も出勤?」
繁華街でこんな客に会うなんて最悪
色屋で働くこと自体偏見がある
それに加え〇番街という表現はあの町独特
店主であるケンさんが良い人だから普通の服を着て繁華街へ行ける
でもこんな店は滅多にない
「9番街って落ちぶれたところっしょ。お前そんなところ行ってんの」
事情も知らないくせに
ケンさんがどれだけ馬鹿だけど優しくて良いひとか知らないくせに
どいつもこいつも勝手なことばかり
当然周囲の人は私たちとは距離を取る
ごたごたに巻き込まれたい人はいない
ましてやあの町のごたごた
「多分経営が下手なだけ」
それはケンさんに聞かせてあげたい
「接客はあまり変わらないんだよ。本当、あの店の子たちは可愛そうだよ」
なにも知らないくせに
そう掴みかかりそうになった
「おじさん、本人に向かって悪口言うなんて勇気あるんだね」
女の子の声が上からした
見上げると屋根から飛び降りてくる
「その勇気別のところに使った方が良いんじゃない?例えば、奥さんに感謝の花束渡すーとか?」
お腹を指さす
「そんな体型なのに遊び歩いてたら奥さんに愛想尽かされちゃうよ?」
男がわなわなと震える
「お前もどうせ色屋で働いてるんだろ!」
「色屋ってなに?絵具でも売ってるの?」
この辺りの人間じゃない
一瞬で分かる言葉だった
「行ってみる。ついでに町の案内」
「良いの?良い子に会えて良かった」
ぱっと明るくした表情にドキッとした
「昨日この辺りに来たんだけどなにも食べてなくて。美味しいご飯屋さん行きたいな」
「まずうちの店」
「色屋ってご飯屋さんなの?」
「違う」
「んー?」
ひとつ、買い物を済ませたばかりで荷物が重い
ふたつ、この騒ぎの後で入れる店はない
入れたとしてもすぐにバレて追い出される
人の噂も…何日だっけ
ことわざは忘れたけど、ここは大抵3日
1週間で長い方
みっつ、おてんば腹ペコ娘に食べさせてあげるほど財布の中身に自信がない
奢ってあげる義理はある
それに一文無しにしか見えない
だって秋口なのに半袖一枚
おてんばだから?
ちょっと無理がある
絶対寒い
以上、まずは店に向かいます
「店に着くまではこの出来事の質問しない」
「分かった。じゃあ半分貸して」
店の人以外に荷物を持たせて盗まれないか心配だった
それがこの辺りの、あの町の、当たり前
「それなら」
渡したのは私個人の買い物
他の物に比べると小さくて軽い
「ありがとう」
少し寂しそうではあったけれど、笑顔でそう言われた
断られると思って言ってこの言葉なら
それならこの子は、もしかして
「あー!塩の匂いがする!もしかして近くに海があるの?」
「ある。遠回り。まず店」
「はーい」
約束した通り店に着くまでさっきのことは一切口にしなかった