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干天の慈雨  作者: ゆうま
10/57

始まりと死⑨

待て待て

なんでだ

どうしてだ


「ほら、ケンさんが混乱して動けない今の内に」


ナギの表情も狂気に満ちている


「待て。何故ナギを殺そうとしている。お前は殺されたいんだろ」

「そうだよ?」


不思議そうな顔をされても

なにが不思議なんだ


「ケンさんには分かりませんよ。殺されたい人の気持ちは分かりません」

「そんなもの分かりたくない。頼むよ、止めてくれ」

「そんなに簡単に止められるなら、こんなことにはなってないんです」


悲し気に笑うナギ

苦し気に振りかぶるカー坊


「止めろっ!」


カー坊の手を誰かが後ろから止めた


「きみは馬鹿なのか!」


必死なヤスの声にナギは微笑む


「はい」


ヤスの大きなため息


「さめちゃったー。帰るねー」


持っていた凶器も狂気もポイッと捨てて背を向ける

普段帰るのと同じ様に部屋を出て行く


「きみは自分がなにをしたか分かってるのか!」

「死のうとしただけです」

「どうしてカー君に殺させようとしたの」


…殺させようと?

どういうことだ?


「あの人は死ぬってこと、分かってない」

「そんなの俺だって分かってねぇよ!どうせきみだって!」

「怒鳴らないで最後まで聞いて」


ナギの落ち着いた声にハッとした表情を見せる


「ごめん」

「だから知ろうとしたの」


小さく首を振るとぽつりと言った


「殺される前に知りたくて、殺そうとしたの」

「うん」

「だから簡単に止めた」


簡単に止められないって言っていたじゃないか

…いや、それを言ったのはナギだ

カー坊は上手くノせらせたってことか?

自分が「誰か」に殺される為に?

なにか違う気がする


「死ねなくてガッカリした?」


ヤスの目をしっかり見る


「隣の部屋にあなたがいるのに?」


じゃあ益々なんの為に


「俺を試したんだね」

「はい。止めに来てくれて嬉しいです」


普通の少女と同じように笑った

ナギのそんな笑顔を見たのは初めてだ


「当たり前じゃないか」


ぎゅっと抱きしめる


「良かった。なんともなくて良かった」

「ごめんなさい」

「きみがそんな月並みなことを言うとは思わなかったな」


ナギがくすりと笑うとヤスも穏やかに微笑んだ


「その言葉、そっくりそのままお返ししますよ」


少し拗ねたような顔をする

こんな顔も出来るのか


「ひとつお聞きしたいことがあります」

「なに?」

「どうしてケンさんに昨晩のことについて嘘を吐いたことを怒らないんですか」

「その嘘はケンを助けられるか確かめる為の嘘だろう?」


俺を助ける?

なにから


「この町にいればケンは早死にするからね」

「はい、そうならないことを願っている人が大半だということは明白です」


この町から俺を救う

そういうことか


生まれ育った町を捨てるなんて

この店を、この店の子を捨てるなんて

出来ない


…そうか

俺はずっとここに囚われているのか


そういえば継ぐときに言われたなにかに囚われているような…

というか、どうしてここを継ぐことになったのか

両親は継がせたくないと常々言っていたはずなのに

なんだか記憶が曖昧だ

どうして今までそんなことにも気付かなかったんだ


「ありがとう」


どうしてヤスがお礼を言う


「でも無理なんだ。ケンはこの町から逃げられない」

「詳しい事情は分かりませんがその様ですね」

「うん。ごめんね」


何故ヤスが謝るんだ


「いいえ」


優しく微笑んで優しい手つきで頭を撫でる


「ケンさんが「大切」なんですね」

「すごく不服だよ」

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