4-10離れた友はいつかの敵
世界が着々と滅びへ向かっている。
それを実感したのはヴァルハラへと向かう道中。急ぎヴァルハラのあるアースガルズへと向かう中で火の海に飲み込まれていた村や、息絶えた生物。無へと帰した森などが目に映り、怒りの感情がふつふつと込み上げる。
「くそ……あちらこちらで崩壊が始まっておる……オーディンのやつ一体何を考えとるんだ!」
アルヴァースが叫ぶ。無理もないことだった。本来ヴァルハラは世界の中心であり生命線でもあるユグドラシルを護り、終末を制止させたり阻止するために設立された場所だと知っているから。
今もなお終末に備えて兵たちを鍛錬しているはずでもあるのに、ヨルムンガンドが動きだしても動きはない。むしろ世界が滅びに向かう方へと手をかけている。なおさら怒らない理由などなかった。
「本当に酷いっスね……これが人間のやることなんスかね」
「わからないです。良い人もいますから多分一部の人だけだと……ってアルミラージさん!? いつから追いかけて!?」
「割と最初からっスけど?」
「危ないから留守番していてほしかったよ~……」
「いや留守番とは言われてないっスし、聞くところによれば世界が滅びかけてるらしいじゃないっスか。なら留守番してるより着いていった方が良いかなって」
「これは遊びじゃあないんですよ!? 大きな戦いになるのは間違いないでしょうし、最悪死ぬかもしれないんです。なのに着いてこられても困ります!」
悲愴感に浸りつつ、亡骸と化した集落へ黙祷を捧げているとドワーフの里に置いてきたはずの知った声が鬱気満ちた声色を発していた。
驚いて振り向いてみれば案の定アルミラージの姿があり、一度ならず二度までもひっそりと着いてこられたことに呆れと、終末による怒りとは別の怒りが沸き上がる。怒ったところでどうしようもないことは十分理解しているが、今から向かう場所は相当危険な場所でもあり、彼女の行動を咎め制止させる意味を込めて言うしかなかった。
けれどアルミラージの顔はいたって真面目。それどころか。
「わかってるっスよ。でも私も何か力になりたいっスから。迷惑はかけないつもりっス」
「……一応言っておきますけど、何かあっても私たちはあなたのことを護り切れませんからね。行きましょうアルヴィースさん」
それ相応に考えがあって行動したことが彼女の真っ直ぐな眼差しから伝わってくる。そのうえ何を言っても言うことを聞いてくれない様子で、もはや呆れて何も言うことはできなくなってしまった。
多少は気に掛けるものの、この後に待ち受けるであろう戦いは壮大になる可能性があり、何人も護りながら戦うなど到底できる気はしない。だからこそ先に注意喚起だけして、まだ黙祷を続けるアルヴィースに声をかける。
「……うむ。先も言っておったが、この後は間違いなく険しい戦いになるやもしれん……まだ参の魔導書の行方がわかっとらんのと、肆の魔導書がないのが少々、いや結構悔やまれるが、やむを得まい。心してゆくぞ」
黙祷しながらも周囲の状況は把握していたようで、アルミラージがいたことについては何も驚かない。それどころか冷静に現状を簡単に口に出し、ハティがアルミラージへ向けた忠告も復唱した。
それからどんどんとアースガルズへと近づいていく。いつもならば魔物に遭遇することが多い道のりだが、ヨルムンガンドが闊歩している影響で魔物も少なくなっているのだ。今は時間に追われる身のため、今だけはヨルムンガンドに感謝するしかない。




