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双子獣人と不思議な魔導書  作者: 夜色シアン
第四幕・ラグナロク
82/85

4-8双子に希望を託した騎士

「ほう、電気の網を掻い潜ったか。でも邪魔だどけ」


「そっちが!星屑の舞!」


 漸く体制を戻せたエリスは再び星屑の聖剣を振るう。されど完全に力を開放した彼にとって虫を避けるようなもの。のはずだった。


「……ほう、確実に攻撃は避けたはずだが」


 頬にたらりと液体が流れる違和感を覚えたトール。拳で軽く拭えば甲は紅く塗りつぶされ、垂れる液体が血であることを決めつける。しかしたしかに彼はエリスの剣を避けた。力もなく振るわれているからこそ剣の描く道筋が彼の目に映り、連撃をも容易に避けれていた。なのに不思議と彼の頬に、身体に傷が付きたらりと血が流れ出る。


 原理は彼女が振るう力と星屑の剣。星の細かな光を収束させた剣は、強く握れば真っ直ぐ伸びる直剣に。力を抜き、剣が抜けないほどの力量で星屑は剣の形を留めず、まっすぐに見えて不規則な剣と化す。だが力を抜きすぎれば剣として振ることはできないうえ、簡単に拳から離れてしまう。故に絶妙な力加減が必要だが、エリスはそれをいとも簡単そうに操っているのだ。実際、これには技名は無く、たんに力を抜くだけでいいのだが、それだけでは味気がないと範囲的に攻撃できるこの技を、彼女は星屑の舞と呼んでいる。


「しかしそんなに力を抜いていると、取ってくれと言わんばかりだな」


「いいや、取れませんよ貴方には。この剣は人を選ぶ。なにより星屑が傷をつけたのが証拠です。形勢が逆転しましたね!」


「だからどうした?というかさっきも言っただろう?これだから小童は……」


 不規則な形のない剣筋に、避けることすらできず形勢逆転したわけではなく、彼は魔力が少し戻るのをただ待っていただけ。声色を変えため息をつくとでたらめに振る剣を難なく素手で捉えられた。いや、素手は素手でも、魔力を纏った拳。セラフの剣を身体を捉えたときのように星屑の聖剣ですら、その単純な力によって捉えられた。


 だが星屑の聖剣はいわば、細かな粒子の集合体の剣。例え魔力を纏った拳でも無傷では済ませない。はずなのに一切合切トールの手は無傷。


 捉えられた刹那で、焦ったエリスはぐっと握り力技に押し込むものの、力勝負は明らかに劣っているのは確かだった。だが、力を入れざるをえなかったのだ。もしそのまま、力を抜いている状態であれば、そのまま押し返されるか、剣を自らの武器にさせてしまう恐れがあったからだ。


「そうだな、お前の言葉を借りるなら、形勢が逆転したな。エリス。もう終いだ」


「ぐっ……!」


 微かな希望でもあった聖剣も、全てを犠牲にして呼び出したセラフも通用しない。異常なる強さ。いいや、彼女は最初からわかっていた。目の前にトールが現れてから。勝ち目はゼロだと。巨大蛇ですら手に余る魔物だと言うのに、それすらも上回る彼が来たのだから。しかし彼女は決して手を離さない。逃げることは許されない。唯一の家族の敵でもあり、仲間を守るため。それが今まで少女たちに与えてきた恐怖の償いでもあった。


 だからこそ、彼女は最後の……いや、正確には最初から()()を重ね続けた計画を実行し始める。


「……あ、は、ははは……」


「なにがおかしい?」


「自分の無力さがおかしくて……そうですね。もう、終わりにしましょうか……力の契(ホルコス)


 突然笑い始めたエリスが静かに唱えた力の契。それは、自らの力と彼女が直前に触れた人物との力を平等にする魔法。例え、どれだけ離れようと効果は続き、どちらかが力を高めてもそれは仲良く分断され無意味になる契の魔法である。魔法にかかると力の大きい者は急激な脱力感に蝕まれ、力なき者は反対に力が溢れ始める。


 しかし、彼女は一体いつトールに触れたのか。それは虚言(プセウドス)を解除した際、彼の後ろに現れた時。このときのために微かにトールに触れるために、自然にされど不自然に接触を果たしていた。


「おま……え……何をしたっ!エリス!」


「力を平等にしたんです。でももう私の魔力はこれが限界……とはいえ、あなたを止めるにはもったいないくらいの魔法でしょう?まあこれ使えば、身の安全が保証できなくて使えなかったんですけど」


 と、あの最強の男が脱力感に苦しむ顔を拝みながら、しっかり彼の腕を掴むと。後ろにいるはずの双子に振り向くこと無く、涙ぐんだ声で……されど漸くちゃんと友達になれたのに、別れてどこか遠くへ行ってしまう悲しさを隠し、彼女は最期の言葉を投げた。


「ハティ、スコル……貴方達だけは逃げて……そして――」

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