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双子獣人と不思議な魔導書  作者: 夜色シアン
第四幕・ラグナロク
79/85

4-5嘘八百

 拳を握りしめて、振るった先はセラフ。苦痛で少しだけ距離をおいていたはずなのに瞬く暇もなく懐に入って、ミゾオチに拳がめり込む。彼からしたら漸く攻撃を、反撃を開始したのだ。


 対してセラフは苦痛の顔色だが、よろめくだけで決して倒れることは無い。いや、セラフの構造は原理的には魔法生命体の魔物と同じで、一定以上負傷してしまうと消失してしまう命。しかしこうして倒れないのは、エリスの魔力はもちろん、命や記憶を代償にして形を保っている。つまりは苦しむのはエリスになるということ。


「うぁぁっ!」


 叫びとともに彼女の心臓が強く打ち付ける。脈が一瞬だけ止まる。呼吸も止まる。息ができない。苦しい。辛い。一瞬の間に「死」が押し寄せる。だがそれがセラフの代償。彼女とてわかっていたこと。しかし、そのことを誰に教えてもらったのか、もはや虚ろになりかけた彼女には覚えていないだろう。しかし代償を支払ったことで、セラフの傷はまたたく間に消えていった。


「代償で傷が治るのか、ならばセラフを潰せばお前もおまけに潰れるということか。手間が省けるな」


「……は、はは……本当に……強いですね。流石……国家を守る騎士さんです。ですが、果たして貴方の言うとおりになるでしょうか……?」


「ならば早く反撃してみろ。それとも何か?やっぱりセラフだけじゃ戦力不足で仕方ないか?」


 セラフの傷が完全に回復したことが、彼にとって驚きのことだったが、実に冷静にことを理解していた。セラフを完全に行動不能にすれば、エリスも確実に追い詰めれる。最悪死に落とすことだって可能。とはいえいつまで続くのかわからない現状。無闇に攻撃を繰り返してスタミナが無くなっては元も子もない。故に彼の動きは一度止まってしまう。


 だが、それが一つの命取りとなる。


「ええ、全く……全くもって戦力は足りてませんね。ですが、()()()()()()()()


 時間が足りた。その言葉を吐いたエリスは、構えを取っていた場所から姿を眩ませていた。否、この広く狭いドーム状の洞窟内で、それも一切隠れる場所などない場所で隠れることなど無理な話。ならば一体どこに消えたというのか。答えは――


「さてと、そろそろ虚言(プセウドス)の効果が切れる頃ですね」


「な……!?」


 答えはトールの真後ろ。だが、一瞬にして後ろを取られ反射的に飛んで距離を取った刹那、大きな音を立てて、天井が、分厚い土の天井が落ちた。その場にいる人を巻き込んで……はいない。というのも、セラフを出してから一切彼に攻撃はしていない。記憶は確かに消えていっているが、彼女が命と記憶まで費やし攻撃していたのは天井。セラフの光剣がいくつも消える中で大きく貫いていたのだ。


 だが、トールの目には別の()()が 映っていた。動かぬエリスと激しく攻撃を繰り返すセラフ。そしてそれに対して一方的に反撃する自分自身だけ。


 その映像は、エリスの魔法によるもの。それも相手に知られていては、一切の効果がない究極なる魔法虚言(プセウドス)の効果によるもの。それもセラフを出してすぐに小さく唱えていた。


 効果は一分しか無い偽情報を見せる魔法。とはいえ天位を抜くに一分は足り過ぎた。


 故に崩れる直前、エリスから天井を抜くことを知らされた双子が、魂が抜けた人質を担いで、かつ風の魔法で重力に身を任せる土の落下経路をコントロールし、一切の被害を抑えることも可能とさせた。


 そこまで準備すらもされた天井落とし。なのにも関わらず、多くの土に飲み込まれたトールは、足掻き、足掻き足掻き足掻き足掻き。泥まみれで、衣類すら破けてしまう中で、自然落下した土砂をかき分け地表に出た。


 双子も、エリスも予想すらできない不死身さ。流石はゼウスと対等であるといえる。


 だが、仮に生きていたとしても、天井が抜かれ、狭くされど月明かりが指すこの場所はエリスにとっては()()であった。


「さあ、完全に準備は整った。本気で行くぞ……雷帝ッ!」

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