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双子獣人と不思議な魔導書  作者: 夜色シアン
第四幕・ラグナロク
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4-4熾天使すらも抑え込む強敵

 ――熾天使セラフ。そう唱えた彼女は、一瞬頭を抱える。走馬灯じみた回想が、ゆっくりと紙が焼けたように散り散りになっていく。そんな感覚が彼女を襲っている証拠でもあった。強制的に削除されているためか、痛みも伴っているが、されど強い意志でただただ、目の前の敵を倒す。そして後ろにいる二人を守るという役目を持って、前を見る。


 それに今の彼女は一人ではない。記憶に半分の命。協力者から譲り受けた魔導書を代償に生まれた彼女の最終兵器。熾天使セラフが共に戦場に立っている。


 流石は天使と呼ぶだけあり、背丈はエリスほどあるのに、スラッとしたムダ肉のない身体に、白い翼が二枚。また、白の羽衣を写し込んだような白亜の髪に、金色の瞳をもつ天使は、もはや神であるかのように神々しい。されど、虚無の瞳には一切の感情が見えない深淵。表情も無だ。


 だが、今はそんなことを気にしていられる余裕はない。記憶が消えていく感覚を持ったまま彼女は、掴まれた際に落としたダーインスレイヴを拾うと、相手の想像を更に超えるかのように右足を後ろに回し、右手に握る剣は胸元に。まるで低姿勢で剣を投擲するかのような構えをとった。


 刹那、攻撃姿勢をとったと認識したセラフは、暗い洞窟内を更に強く照らしつけるかのごとく、眩い光剣を自身の周囲に六本並べ、さらに両手にも光剣を握り、計八本の(つるぎ)をすぐに作り出してみせた。


「この型を見せるのは、貴方で最初で最後です……」


「一気に隙きが見えなくなったか……その天使といい、小癪なことをするようになったものだ、だが、私に当たらなければ無意味だぞ?」


「その最強っ面、今ここで剥がしてやる!」


 エリスの怒号が引き金となり、セラフが出した六つの光剣がトールに向かってひとりでに飛んでゆく。だが、流石はあのゼウスに匹敵するほどの強さを誇るだけあり、見た目華奢なのにも関わらず、六つの剣が向かう矛先を見切って軽々と避けている。


 しかし、それで良かった。これはただの時間稼ぎ。彼女が準備ができるまでただひたすらに、セラフは自らの身も繰り出し、更に注意をそらす。


 ――はずだった。


「たかが、六本。セラフが来ても八本。大したこと無いな。熾天使様は……それで?時間稼ぎは済んだか?」


「なっ!?」


 余裕の笑み。長年の経験の差だろうか。四方八方から飛び交う六本の光剣と、避ける暇を与えさせまいと近距離で行動するセラフを相手に、一切の焦りがない。さらにどうしたことだろうか。攻撃を受けたわけでもなく、全くそんな動作すらもなかったというのに、気づけばセラフは傷だらけだった。それどころか、飛び交う光剣が二本ほど消え失せている。セラフの魔力が少なくなったのか……答えは否。セラフの無尽蔵な魔力を持ってすれば自然に消えることはない。ならば答えは一つ。


「にしても、天使のご自慢の光剣ってのは随分脆いものだな。こいつ本当に熾天使か?」


「そんな……素手で壊したの……?」


「鍛え方が違うんだよ。鍛え方が」


 実体がないはずの光剣を素手で掴み、そのまま握りつぶして光剣を消し去ったのだ。なんという無茶苦茶な手なんだと絶望を浮かべることしかできないなか、「どうせここで死ぬんだから」と、追い打ちをかけるように原理を、ついでの如くセラフが傷ついた説明をし始める。


「魔力を手のひらに集中させることで、ちょっとした層ができる。その層を使えば、例え実体がない魔法もつかめる。つまり、相手の魔力に干渉できるんだ。応用すればこんなふうにもできるってわけだっ!」


 光剣を消されてもなお、心持たぬセラフに襲われつつも余裕な声色で説明をすると、突然セラフの攻撃を手でいなすと、攻撃が当たったわけでもないのにセラフの腕に今ついてる傷の中で最も深い切り傷が生まれ、大きな弧を描く鮮血が飛び散った。


 それには流石のセラフも苦の表情を浮かべ、ピタリと攻撃が止まってしまう。


「こっちが本気を出したらこれだ……全く、さっきの威勢はどうした?もちろんまだ終わりじゃないよな?俺の最強っ面を剥がすんだろ?ほら、やってみろよっ!」

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