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双子獣人と不思議な魔導書  作者: 夜色シアン
第四幕・ラグナロク
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4-1エリスvs雷帝

 先に動いたのはトールに従っていた巨大蛇ヨルムンガンド。その身、鱗共々並大抵の剣では全く傷をつけれない程頑丈。されどあまりの巨大さ故にここでは大きく動けないと判断し、戦闘には参戦しないものの外壁にいくつも存在する穴をその身で全て塞いだ。


 否、先に動いたのはヨルムンガンドだが、今はトールに従えている身。指示をされなければ動くこともない。つまりは最初からその場にいる人達を逃がすつもりは全く無いトールが仕掛けたものだ。


「なるほど……逃さないってことですか」


「もちろん。処刑場に逃げ場など必要ないだろう?それに一方的なのも気が引けるし、俺からしてこの場所は不利なんだ。すこしは楽しませてくれたまえ」


「その前に、ハティさん。スコルさん。これは本来私の戦い。なので二人は手を出さないでください」


「でも……」と、相手の強さに不安しかないハティが呟くと、


「大丈夫ですよ。終わったら、今までのことちゃんと謝罪させてくださいね」


「……絶対だよ~死なないでよエリス~」


 少女の手を借りず、騎士の問題故、自分で解決すると豪語するエリス。何を言っても手を貸せそうもなく、双子は今までにない優しい顔を浮かべたエリスの背中を見守ることしかできそうもない。


 とはいえ数的には平等だが戦闘力に関しては雷帝のほうが明らかに上。勝ち目なんてゼロに等しく、されど逃げ道は塞がれた。彼の不気味な笑みが空間を照らす炎の魔法で余計恐怖に見える。バチバチと強力な電気の音が脳にこびりつく。それでも決して怯むことなく、されど焦りで剣を持つ手に汗を握りつつ力がこわばる。


 額に汗が。頬にたらりと冷や汗が。まるで全身に水を浴びたのではと思うほどに異常なる発汗。けれど少しでも目を離せばやられてしまう可能性があり、汗を気にすることは無理な話だった。


 だが、ここで動かなければいつかはやられてしまう。後ろにいる双子すらも。ならばと汗が顎から落ちると共に漸くエリスの足は前へと運ばれた。


「――――せあぁぁっ!」


 あまり近づきすぎると勝手に感電してしまいかねないが、現状からしてそうも言ってられない。ただ一つ。一つだけ、彼女には秘策がある。されどその秘策はなるべく知られてはならない。絶対秘密の秘策の魔法。誰か一人にでも知られてしまえば、それだけで秘策が崩れ落ちてしまうのだ。


 故に今の今まで誰一人として明かしたことはなく、一度しか使えない魔法。この状況で長期決戦は圧倒的に不利になるため、その魔法で決着をつけようとなるべく……なるべく近くに向かう。


 刹那、巨腕の左手が大きく開き一直線に向かってくるエリスをがっしりと掴む。電気が身体の中を焼くように走る痛みが彼女を襲う。


「うぁぁぁぁっ!!!」


「動きが単純だな。エリス。腕落ちたか?」


 ギチりと強く、強く……巨腕の手を締め始める。されど電気が走るのは止むことはなく、徐々に体中が悲鳴を吐き出す。


「エリスさん!」


「く、るなぁ……!わた、しは……だい、じょうぶ、だか、らぁっ!」


「ほう、まだ強がるか」


 身体中痛くてたまらず、あちこちが悲鳴の嵐だというのに、双子の心配そうな顔を見ても、その厚意を受け取らず強がる彼女。本当はどうしようもなく逃げたくて仕方ないのに、彼女の騎士である心が絶対にそうはさせず、一心不乱に抗う。なにせ()()()捕まったのだから、むしろ死ぬわけには行かないのだ。


「つよがる……よ。まだ、負けてない、から!……うが、て……てんけ、い……さい、しゅうもく……反逆(ルシファー)!」


 更に力が増し、もはや息もできなくなり始めたところで、渾身の言葉を放つ。少ない口数でなんとか唱えた天啓の魔導書の魔法は、一瞬にして右巨腕の電気を消し去り、動力を失わせた。


 否。消し去ったのではない。右の巨腕に込められた魔力を、彼女が全て吸い取ったのだ。だが、それだけで終わることはなかった。むしろ今から始まるのが正しいだろう。巨腕から抜け出した彼女が自然に地面に打ち付けられ、咳き込むが問題はない。肋骨が何本か折れているがそれすらも、今の彼女には関係すらなかった。


「馬鹿な……」


「本当は……今の魔力を吸い取る魔法は一度しか使えないので、使いたくなかったですが、貴方が相手なら仕方ありません……さてここから反撃です。熾天使セラフ。共に戦いなさい!」

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