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双子獣人と不思議な魔導書  作者: 夜色シアン
第三幕・地下の街《スヴァルトアルヴヘイム》
72/85

3-11新たな魔法

 すっとやる気に満ちた目に変え、頭の中にある情報をぐるぐるとかき混ぜる。


 ――もし、お母さんのように魔法を創り出せるなら。


 死の国と呼ばれるヘルヘイムで、亡き母と会い戦った時からずっとそう思っていた。


 しかしあんなにも複雑な魔法を唱えられるはずない。あの時に言っていたことだってよくわかっていないうえ、そもそも何語かすらわかっていないのだ。


 けれど似たような事ならばもう既にやっている。水に爆発を混ぜ合わせたように、風の刃を風で方向転換したように。


 ならばと、スコルにも内緒で少女は特訓と思考を重ねていた。自らの魔力を、黒狼の力を制御できるように。


 自ら編み出す物語(まほう)をものにするために。


「……空気が変わった?」


 そんな呟きじみた声など集中している少女には届かない。静かに空気を吸い、そして吐く。そんな当たり前のことですら忘れてしまいそうなほど、今はただ、頭の中を走る構想を結びつけ、自らが持つ力の()()()()()を――


 解き放つ!


「私が創った、新しい魔法、新しい魔道書……黒煉(コクレン)の書の一ページ……これが私の物語(まほう)だっ!〈焔王の怒(ロードエリシア)〉!」


 大きく叫んだ刹那、土竜が土を埋め固めた場所の上空にとてつもなく大きな魔法陣が構成される。が、それだけでは終わらず、地面へと向かって五つほどこれまた大きめの魔法陣が生まれる。


 けれどそれで構成は止まることは無い。周りに被害が出ぬように薄い膜がドーム状に貼られたのだ。魔法陣の下に的を絞るように貼られた膜の中には、もちろん誰もいない。


 だからこそ。


「吹き飛べ!」


 少女の今のありったけを、その魔法に乗せて叫ぶ。黒くおぞましい色の光の線が魔法陣から放たれると、爆発音と地響きと共に地形が変わった。地形が変わったなんて大袈裟ではあるが、実際ドーム内の土が崩れるどころか、黒い爆炎によって消え去ったのだ。


 といっても目視できたのは、爆風によりドーム内が土煙に覆われたため、少し時が経ってからである。


「……はぁ、はぁ……ど、どうですか……こんなの貴女にはできないでしょう……?」


「え、ええ、できないですね……魔力全焼とか普通ありえないですから……いやでもこの威力……今が休戦でよかったですよ……それよりも新しい魔導書……知らない魔法……やはりフェンリルの血を引いてるということですか」


 巨大な穴が目に入るやいなや、唖然とした顔をうかべるエリス。しかし、驚いていたのは穴ではなく少女が作り出した強力な魔法と、新たな魔導書の存在であった。


 今までの魔導書は作られた順にナンバリングされ、世の中に知れ渡った魔導書だ。けれど、少女が創り出した新たな魔法が刻まれる……というよりは刻まれる予定の魔導書は、ナンバリングもなければ、認知もされていない。となれば少女が言う黒煉の書がどれほどの力を秘めているのか、謎に包まれるだけである。


 一方で、ありったけを解き放ち動いてもないのに汗が流れ、力が抜けたようにだらんと腕をおろし息も上がったハティは、おぼつかない足取りで一度相方であるスコルの肩に捕まり息を整えていた。


 けれど深呼吸だけゆえ、実際的に一瞬しか休んでいない。


 というのも少女は恐ろしいことに魔力がなくとも、何事もなく動ける。獣人は特に魔力を持たないものが多いためか、魔力が宿り全て使っても何ともないことが多い。


 更に息を整えただけで済ませたのは、休憩してる間にまた変な魔物と遭遇して戦いたくはなく、となれば休む時間など正直要らないからである。が、


 魔力を使い果たせばまともに立ってられないことを知っているエリスは、ハティが何事もなく動いてることに、驚きの顔と共に「普通に動けるのですか……」とボソリと呟いていた。



「ふぅ……とりあえず道は開けましたし、行きましょうか」


「だ、大丈夫〜?無茶したんだから少し休んでこ〜よ〜」


「大丈夫です。それにこうしてる間にも被害は増えてるはずです……なら急がないと」

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