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双子獣人と不思議な魔導書  作者: 夜色シアン
第三幕・地下の街《スヴァルトアルヴヘイム》
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3-10穴の先③

 自己再生能力。


 それは生命あるモノに与えられた神秘的な力。怪我や病気など時間を費やせば、確実に回復するという優れた回復能力。とはいえ、大半は重症を負った時点で、回復能力は追いつかなく生命は消えてしまうが。


 けれど時には並外れた自己再生能力を持つモノがいる。


 腕を切られても、胴体を切られても、時間さえあれば元に戻ってしまうモノが。


 しかしもしそれよりも遥かに高い自己再生能力が存在するなら。それは間違いなく不死身と言われる存在になるだろう。


 例えば……そう。ハティとスコルの目の前にいる魔物のように。


「物理が効いてない……?」


「でも当たって切った感覚はあるよ〜……うぇぇ怖いぃ〜」


「とりあえず魔法も試してみますか……私も試しあてみたい魔法ありますし」


 そう言って深呼吸するやいなや、「〈炎爆(フレアボム)〉!」と叫ぶ。少女なが持つ魔導書には載っていない魔法だが、これは以前使用した〈爆発(プロア)〉を応用した魔法。威力はそのままに範囲だけ絞ることに成功したのだ。


 故に、周りには被害が出なく、されども相手だけを巻き込む炎の爆発が生まれ、大きな音を立てた爆炎が魔物を包み込む。


 けれども、炎が消え見えた魔物の姿には傷一つ付いていなかった。


 そう、不死身とも思われる強力な自己回復の前にはいかなる攻撃も無駄である。


「やっぱりダメですか……」


「どうしたらいいかなぁ〜これじゃあ勝てないよ〜」


 と嘆いていると、筋肉ムキムキの魔物が拳を構える。刹那の瞬間魔物の正面に小さな魔法陣が現れ、それを殴った。パリンと薄いガラスが割れる音がなればスコルの腕に浅めの切り傷が生まれる。


 更にもう一つ魔法陣を粉砕すると、ハティの下に魔法陣が現れ、先程の爆発とほぼ同じ爆発が起きる。


 とは言っても、魔法陣を見た瞬間に範囲から抜けていたが、相手の魔法の正体が今ひとつわかっていないようだった。


 それもそうだろう。誰しもが今しがた相手に喰らわせた攻撃が、ほぼそっくり帰ってくることなどわかるはずもないのだから。


 否、その場にいる者の中で、その事を知っているのは“二人”いた。


 一人は少女達の魔導書内に住み着く妖精。もう一人は――


「その魔物はぁ、相手の攻撃を跳ね返すアンデッド種ですよぉ?知らないんですかぁ?」


 たった今、土竜を仕留め終わったエリスであった。


 血塗れた剣を一度鞘に収め、少女達が無能であることを嫌味混じりの笑顔で指摘する。


「休戦中だから教えてあげますけど、アンデッド種は物理も攻撃魔法も効きません。一部を除いてですけど。見本をお見せしますよ」


 直後にして、相手も行動に移る。仲間がやられたからこそ、反撃の意をかねて自慢の筋肉を最大限に利用した猛烈な突進。一度喰らえば骨が砕けてしまいそうだが、一見すれば単純な突進。見極めてかわすのはとても簡単であった。


 土煙をあげるほどの力強さも、見極められ避けられては意味もない。逆に逆手に取るのも可能であり、軽々と避けてみせた騎士は。


天啓の魔導書第十目(シェムハザ)


 たった一言、そう呟いた。すると刹那にして、魔物の動きを止めるように、敵の目の前から光り輝く鎖が現れ、それに吸い込まれるように突進し続けた魔物は、生命が宿っているように自由に動く光の鎖に拘束される。


天啓の魔導書第八目(カマエル)


 身動きが取れなくなった魔物を嘲笑い、そして虐めるように、続けざまに天啓の魔導書に描かれている魔法を、何も参照せず唱える。


 彼女が唱えたのはアンデッドに対して有効な光の攻撃。破壊を極めた魔法でもあり、唱えた瞬間から魔物の頭上にいくつもの魔法陣が描かれている。一匹に対して大袈裟なものであるが、それが彼女の性格だ。


 逃げることもできない。攻撃もできない。守ることさえも許されない。そんな極限の所まで追い詰め、最後には痛みを与え殺す。


 逆に痛みを与えぬように殺すなんてのは彼女にとって以ての外であり、実に楽しくもないやり方と考える腹黒な性格。


 故にこうして大量の魔法陣を展開させ、アンデッドどころか地形すら消し飛びそうな光線で、跡形もなく消し炭にしてしまうのだ。


「アンデッドは、今みたいな光の魔法が効くんですよぉ?わかりましたぁ?あ、貴女達はまだ使えないんですもんねぇ?笑えますねぇ!それで魔道士なんだから余計笑えますよぉ!」


 くるりと踵を返す彼女は、にっこりと満面の笑みを浮かべ忠告……もとい指導を行う。が、それは可愛いものではなく、ただ自分にできて他の人ができないのをいいことに、できない人を嘲笑うだけである。


「ひ、人の事を笑うために見本を見せたんですか……」


「それが何か?まぁ、いいじゃないですか〜できない人を嘲笑うのは楽しいですよぉ?」


「人ができないのを嘲笑うのが楽しい……ですか。私にはわかりませんね、貴女のようにただ見下してるだけの人には、できない人の苦労はわかりませんよ。だからそのうち追い越される」


「へぇ?言うじゃないですか。じゃあ私にできないような魔法でも使ってみたらどうです?」


 少女と彼女の視線が火花を放つが如く、互いを睨みつける。が、エリスの挑発によって更に火がついた少女は、挑発だろうがなんだろうがあっと驚かせてやろうと、頬を膨らませて手を突き出した。


「じゃあ見せてあげますよ……貴女を超える私のとっておきを!」

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