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双子獣人と不思議な魔導書  作者: 夜色シアン
第三幕・地下の街《スヴァルトアルヴヘイム》
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3-7国家騎士エリス、再び

「それガ、魔導書の保管場所をやられましタ!」


「くっ……今から向かう!動ける兵士は守りを固め、いつでも反撃できるように伝えておくのだ!」


「承知致しましタ!」


 扉の奥から聞こえた地底人(ドワーフ)の言葉で一段と険しい顔色を浮かべるアルヴィース。更に予想外の場所を攻められた為か、ギリリと親指の爪を力強く噛む。


「ここに魔導書が……」


「……うむ。つい先程話そうと思っておったが、状況が一変した。お主らも来て欲しい」


「わ、わかりました」


 キリッとした冷静な顔色はもう無くなり、ただただ険しい顔を浮かべる彼女について行く。でなければ、直前にやってきた双子達もまた疑いをかけられる可能性があり、捕まってしまう。


 それ以外にも、魔導書が関係していることから双子達に協力して欲しいと言われていた。ならばこそ協力せねばならず、少女達は歩みを進める。


 外に出ても薄暗く、ほぼ壁や地面と同じ色の建物が並ぶこの場所は、歩けば歩く程土地勘が狂う。しかし案内の元、この国の周辺を覚えてしまえば自ずと迷わなくなる。


 けれど地底人(ドワーフ)は生まれつき迷うことなどない。土の微弱な色も金属の違いもこの世界にいる種族で一番見えるのだから。


 暫くしてたどり着いた所は、襲われただけあり見るも無残に複数の穴が作られた建物。聞けばここだけ強度も高く、厳重にちょっとした結界もあるらしい。それだけ中には重要な物があるという訳だが……


「やはり……肆の魔導書がない……あれは……あれだけは護りぬくと約束したのに……クソっ!!」


「肆の魔導書……?」


「三がないねぇ〜」


「それよりも一体どういうことっスか?」


「あ、ああ……説明せねばな……ここにあった肆の魔導書、使役(クーデター)終末(ラグナロク)の一部であり、フェンリルが遺した魔導書だ。しかし製作して半年を経てこの地に封印した。凶悪なモノを使役し、牢獄へと封印したと聞いておる。実際のところその本があれば生命を思うがままに操れるからな……」


「一部……?」


「そう。お主らが持っている零を除き、全ての魔導書が終末(ラグナロク)の一部。いや、魔導書を元に終末(ラグナロク)が造られたのが正しいか」


 肆の魔導書もやはりフェンリルが遺した一冊であることがわかるが、何よりも問題なのはその本の力。生命を思うがままに操れる力がある魔導書が流出したとするとこの地が、この世界が更に崩壊の道へと進んでいることは確かだ。


 それに零の魔導書以外の全てが終末(ラグナロク)の一部。その彼女の言葉にじわじわとした焦りが募る中、近くから悲鳴が響き渡る。


 耳のいい獣人が耳を傾ければ、確かに聞こえる男の悲鳴。それも方角からして入口付近を警備していた地底人だろう。


「早速か……()くぞハティ、スコル、そしてその連れよ!」


「アルミラージっス!」


 その場を離れ悲鳴が聞こえた方向へと向かえば、生臭く鉄の匂いが鼻腔を突き刺し、生きている者の荒く辛そうな息が微かに聞こえる。


 次第に目に入ったのは、身体の一部が抉り取られている地底人(ドワーフ)と穴が空いた地面。そして血濡れた剣を、追い討ちのように瀕死の者に突き刺す鎧を着た女性が立っていた。


 流れる血を一滴足りとも残さずに飲み込む剣。たったその情報だけでハティとスコルは、尻尾の毛を逆立てる。


「あれ?来てたんですねぇ」


「エリスさん……」


 間違いなくエリスの声。姿も変わることがない。だからこそ……いや、ドワーフの者が殺されていることにも怒りを感じ、静かに睨みつける。


 けれども怒りが最も強いのは少女達では無く、アルヴィースだった。


「お前……!我が同胞に何をしおったっ!」


 ギラリと睨みつけ、完璧に仕上げたであろう剣を構え彼女は問う。しかし、その気迫にも動じないエリスは


「おっとすっごい殺気ですねぇ?でも私は何もしてませんよ?最近地上にも複数の穴が確認されたり、人や魔物が消えるから穴をたどってったらここに着いただけですし」


「はっ!誰が信じるものか!我が同胞に剣を立てて置いて!」


「クク……信じるも信じないも貴女方の勝手ですよ。私は戦う気はありませんし、無実の人間を殺し、罪を手に入れるか。それとも剣をしまい自分の命を保つか。好きな方を選んでください?」


「チッ……」


 剣をしまい、自らの命を守ることを選択した彼女は、怒りをぶつけることができず、なおかつ仇を撃てなかったと思い舌打ちをしていた。


「いい判断です。それと一つ言っておきましょう。貴女方ドワーフが作った、このダーインスレイヴは生き血を完全に吸わないと鞘に戻らない品物。ならば死にたがりの者を利用するしかないですよねぇ?さて、この事態の原因は?」


 刺した理由を言わないままズポッと刺した剣を抜き取り鞘に納めると、魔剣の名を聴いて、更にず強く睨みつけてくるアルヴィースに問う。


 けれど双子達も似たようなことを聞き、帰ってきた答えなど原因不明しかない。


「……ふぅん。逆に今の今までなぜ“穴を辿らなかったのか”聞きたいですねぇ。相手は穴を掘り進める魔物。なら辿れば自ずと分かるはずですが」


「お前なんかに指図なんてされとうないわ!」


「たかが助からない命を先に貰っただけで、怒るなんて器が小さいですねぇ?」


 なんの躊躇いもなく笑顔のまま話すエリス。これ以上話してもただ気味が悪くなるだけ。それに殺しに来たとも言ってない故、今は気にしない方がマシだと複雑な顔を浮かべる双子達は心に決める。

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