3-5アルヴィース
洞窟を抜けた先には、光り輝く宝石が星空のように天高くぶら下がる大きな空間。光は煌々と地面を照らし、されども程よく淡く目に優しい光。まるで自然の神秘的な世界にでも降り立ったようだ。
しかし淡く照らす石の家は人工的に、かつ美しく作られているのがわかる。
例えば淡い緑光石――空間の天井にぶら下がる石で、文字通り緑色に光る石である――を綺麗に砕いた龍の彫刻が家飾りとして飾られている家。
無駄のない丸さを帯びた家、されども充分な強度も持っていると言って間違いはない。
他にも個性豊かな家が並んでおり、見たところ同じ作りは無いように見える。
だが悠長に見とれている場合ではない。現在進行形で少女達の身に危機が迫っていた。
と、言うのも、やはり鴉で降りてきたのは間違いらしく洞窟を抜けたそばから、小さな門番兵が鋭い槍で今にも突き刺そうとこちらに向けているのだ。
「お前らどうやってここに来タ!」
「答えロ!」
「えっと……魔法で鳥を呼んで降りてきました」
「鳥を呼んダ?ふざけるのも大概にしロ!我ら地底人の里を荒らす者だロ!白状しロ!」
どうやら地底人ことドワーフは、少女達の言い分は聞かず、ならばと信用せず、更には里荒らしだと決めつけ、より一層槍の切っ先を近づける。
逃げようにも、逃げてはまた濡れ衣を着せられるだけ、しかしこのままでいれば殺されるのも時間の問題。もはや後先など考えず逃げた方が良いのでは、そう思った矢先にいつの間にか増えていた兵により、退路を絶たれてしまう。
「ご、誤解だよ〜、私達は宿を探してここに来ただけだし〜」
「口答えをするナ!里荒らシ!」
「何言っても無駄ですか……」
何を言ったところで相手にもされない。その状況に呆れのため息をつくハティは、この場から逃げる方法を一つだけ見いだしていた。だがそれは最終手段。万が一包囲から逃げられたとてここは地底人の住処、来たことがない故に土地勘もない少女達は、直ぐに捕まる事など目に見えてわかるからだ。
されどこの状況下、それを実行するしかなかったのだが……
「止めぬか!そやつらは私の客人だ!皆の者!持ち場に戻れ!」
兵の奥の方から、可憐で美しい音色の女性の声が響き渡る。刹那として兵の目線は声の方へと向き、冷静さを取り戻したのか槍を引いた。
「ですガ――」
「ええい!聞こえなかったか!お主らは持ち場に戻れといっているのだぞ!」
「……ハっ!承知しましタ!」
一瞬にして、敵視していた兵をその場から退けさせ現れたのは門番兵と同じ地底人。しかし背も大きく、鎧ではなく袴を着用している。故か一見オシャレな普通の人と変わりはなく見える。
されども地底人と断定できるのは、ハリがある褐色の肌と、鮮やかで宝石を見ているがごとく透き通った茶色の瞳があるからだ。
「今問題が起きててな……迎えも出さず、ましてやうちの者が迷惑をかけすまぬ。許してくれ」
「は、はぁ……えっと……」
「あぁ、皆まで言うな。分かっておる。我のことだろう?我はアルヴィース。この地を治めている者だ。ハティ、スコル、お主らのことはあの日からこの“目”が知っておる」
と彼女が指を指したのは、自らの瞳。しかし、指を指した途端、右眼が青く、さらに小さくされども複雑な魔法陣が描かれる。が一度瞬きをすると元の色になり魔法陣も消え失せる。
彼女はその右眼で対象を遠くからでも見ることができる上、あたかもそこにいるかのように会話も聞こえる不思議な力を持っている。なら、何故ハティ達を特定し、見ていたのか。それは、あの処刑の日に彼女もまたその場におり、かつ双子の声を聞いたから。
それからというもの、念の為としばらく監視していた……詰まるところ、
「覗き魔!?」
「断じて違うわ!……コホン、さて此度の活躍、見事であった。まさか窮地にたったというのに見事牙を穿ち、死者を出すことなく敵を倒せたのは驚きだ。して、その腕を見込んで頼みがある」
「な、なんでしょう……?」
「先程言った問題に関わることなのだが、今我らの里が……いや、この大地が危機に陥っておる。同士ダークエルフは連れ去られ、ましてや一部のドワーフが殺され、更には一部地域で魔物が消滅しておるのだ」
「それってもしかして……獣人の森付近じゃないっスか!?」
「やはり知っておったか。だかそこは一部でしか過ぎぬ。他の地域でも姿を消しておるようだからな。してその原因なのだが――」