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双子獣人と不思議な魔導書  作者: 夜色シアン
第三幕・地下の街《スヴァルトアルヴヘイム》
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3-3夕焼けの荒野

 ――しばらく進むと、地面がヒビ割れ乾ききった荒野が視界全体に広がっていた。


 ただ大地が燃えているように夕焼けに照らされる荒野は何も無いようにしか見えない。否、ようにでは無い。本当に何も無い。


 だがそれも否だ。何も無いのは表、大地表面だけだ。この近くには地下に広がる国がある。


 国の名は地下の街スヴァルトアルヴヘイム。地底人とも呼ばれるドワーフや、ダークエルフが住まう種族土地だが、旅人が訪れる前提に宿は前日解放している。故か貿易も盛んともされている。


 しかし、街に行くにはドワーフやダークエルフから入口を教えて貰うか、訪れた旅人に聞く他ない。


 自力で見つけることも可能ではあるが、地平線の彼方まで伸びる荒野を、端から端まで見て回るのは時間がかかる。それこそ野宿した方が早いくらいに。


 といえどここで野宿などできるはずもない。一晩にして魔物が消えた森とは違い、ここには魔物がいる。敵対的ではないとはいえ、危険がいっぱいあるのだ。


「妖精さんの話だとここら辺に街があるそうですけど……入口も何もかもが本当に見当たりませんね……」


「このままだと外で野宿だよ〜魔物いるのに〜」


「それだけは嫌っスね……あ、そうだ!ちょっと“上”から見てみるっス!」


「上?」と細長く伸び、されども片方だけ途中で垂れてる耳を揺らすアルミラージの言葉に、疑問を抱く双子のハティとスコル。上なんて見たところでただの夕焼け空。それに万が一空から見るとしても、高台もないこの場所でどうやって見るのか。


 “飛ぶことができない”双子はそう思うしかなかった。


「私は兎人っス。兎人は高い身体能力が売りなんス!記憶のない私でもさすがにわかるっス……よっ!」


 刹那――


 少女は細い足に力を込めて高く、高く飛び跳ねる。


 雲一つない夕焼け空は綺麗なルビー色の赤海のようで、その海に飛び込むような勢い。されども海には届かず天地がはっきりとわかれる位置で、ピタリと止まる。


 止まったのはほんの一瞬。僅か一秒も経っていない。しかし広い荒野を見渡すのには充分な時間だった。


 次第に重力に習って落ちる身体。かなりの高さまで飛んだためか、徐々に徐々に落下速度が増していく。けれども着地をするには簡単すぎる遅さ。空中を冷静に落ちる中、そう感じ取らせるのは、兎人の身体能力あってこそだろう。


「ふぅ……なんか久々に飛んだ気がするっス……あ、入口ぽい……というか確実に入口だって言える場所あったっスよ!」


 見事無傷で着地に成功すると、上空から見えた“入口”を「あっちっス」と指で場所を示す。


 流石の双子も唖然しかできなかったが、真っ先に言葉を発したのはスコルだった。


「おぉ〜アルちゃん凄ーい」


「ふふん!もっと褒めるっスよ!」


「それより、夜になっちゃう前に向かいますよ」


 アルミラージのドヤ顔をよそに、案内を急かす。向かう先は三人が立つ場所から北東。地中を抉ったように丸く穴が空く場所へ向かう。


「あ、妖精さん!ちょっといいですか?」


「はいはい、妖精さんですよっと。で、何かしら?」


 立ち止まることなく、〈先導する妖精(サーチ・フェアリー)〉を呼ぶと、地下の街スヴァルトアルヴヘイムに関する項目はないのか尋ねる。


 万が一あったとするなら、向かう前に終わらせて魔導書を埋めようということだろう。


 それに以前、本に条件が記されなくとも、妖精に尋ねるだけで二つも条件が刻まれた。


 その事もあり妖精に尋ねたのだ。


 一方で「あぁ、なるほどね」と妖精は呟き、魔導書に小さな手を乗せて少しの間を置く。自身に刻まれた記憶を頼りに地下の街スヴァルトアルヴヘイムに関する項目を探しているのだろう。


「――地下の街スヴァルトアルヴヘイムの迷宮に挑むと、闇の術者との戦闘に勝利を刻む。この二つかしらね」


「難易度高くなってませんか!?」


「まぁね。易々と達成されると封印してる意味無いでしょ?」


「そうですけど……」


 ただでさえ、自分の身に秘める『闇の力』は制御できない力。それを抑えてくれているスコルがいなくなれば、後に起こることなど自ずと知れている。


 そんな状況下なのにも関わらず、難易度が高そうな条件がずらりと本に刻まれる。


 されども弱音など吐いてはならない。魔導書を埋めなければ、人の手により世界は滅ぶ、いわゆる本末転倒だ。


 短い溜息をつきつつ、兎人について行くこと数分。完全に日が落ちる前に世界が大きく口を開けているかのような、中が果てしなく暗闇に飲まれた大きな穴の元へとたどり着いた。

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