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双子獣人と不思議な魔導書  作者: 夜色シアン
第二幕・牙を穿て
59/85

2-43敵=好敵手=友達

「はぁ……はぁ……ハティ……ごめん一匹仕留め損ねちゃった……」


「いえ……上出来ですよスコルさん……おかげで九尾さんの治療に専念できましたし……“牙は穿てました”。だから休んでいてください……」


 ハティの元へ戻ってきたスコルは痛みで気絶したマーニと、スコルに連れられ目を回したソールと共に地面に崩れ落ちる。


 だが咄嗟の判断で連れ帰ったソールとマーニも命に別状はなく、ましてやあの狼を一匹仕留めたのだ。ハティの言う通り、スコルの行動は上出来だろう。


 そしてその間、回復に専念していたハティは、勝機に満ちた目で、残りの狼を捉えスコルと入れ替わるようにして戦場に躍り出た――はずなのだが、ピクリとも動くことは無い。ただその場に立ち尽くし襲われるのを待っているかの如く。


 いや、少女は確かに待っていた。襲われるその時を。


 一見無防備な少女に策があるなど知らぬ黒い狼、黒蝕狼(ゲルド・ウルフ)は果敢にハティに向かって高く飛びかかる。


 その刹那、


「轟け暗き闇に光る稲妻よ!零の魔導書四ページ〈雷電(ボルト)〉!」


 力強く唱えた魔法は、スコルの活躍により開放された三ページ、四ページ、五ページの四ページに刻まれている雷の魔法。だが、〈雷電(ボルト)〉は普通稲妻のように上から落ちてくるのが基本。しかしそれとは裏腹にバチンっと少女と狼の間に大きな電気の塊……つまりスパークが生まれ、飛びかかる狼はそれに触れてしまう。直後スパークは一瞬にして狼の中へと吸い込まれていった。


 生物全てにおいて身体には微弱な電力が流れている。そのため生物には電力の器が存在するが、一部の生物以外その電力を貯めることなどできやしない。


 しかし外から器から溢れ出るほどの電気を流し込むとどうなるのか。答えは感電、もしくは――


 ――内部破裂である。


 スパークを取り込んだ狼の牙はいつしかハティの喉まで達していた。だが力強く噛み付く暇もなくバンっと爆裂音と共に生々しい音を響かせ、辺りに狼の肉片が散らばりゆく。


 当然息の根はなく、次第に肉片と血は灰となって消滅していく。


「ふぅ……終わりました」


 くるりと踵を返す少女の顔には冷や汗が流れ続けているが、無事に仕留めることができたためか気にすることは無かった。


「まさかあの黒蝕狼(ゲルド・ウルフ)を一撃で仕留めるなんて……そりゃあ私達が負けるわけだ……」


「驚くよりも先に、マーニさんを回復させますよ……〈大回復(メディカ・ヒール)〉!」


 人の治癒の光は白。淡い白の光がマーニを包み傷を癒していく。


「てか一時的に休戦してるとはいえ、なんで敵の私達を……」


「敵?それはもう違いますよソールさん。今の私達は敵であり味方。そして好敵手であり友達……ですよ?」


「友達……ねぇ……ボク達はハティ達と友達になった覚えは……でもまぁこんな優しい人狼と友達……てのもいいかもね」


 優しい光に包まれ目が覚めたマーニ。回復している以上死ぬ事は無いが、何故か死にそうな声でその言葉を吐いた。


「マーニ!」


「騒が……しいなぁ……まだ痛むし、喋る体力……あまりないから静かにして」


「冷たいっ!?」


 ――――それから時は経ち、夕刻頃少女達は長い階段を上り、出口付近まで戻ってきていた。


「――そういえば魔法ガンガン使いましたけど、ゼウスさん来なかったですね」


「そりゃあそうさ」と、右腕を無くした九尾は、何食わぬ顔で。


「ここもあの地下と同じで魔力は外に行かないし、上から来ることもないんだから」


「よく知ってるね九尾……一体どこまで知ってるのか気になるけど、とりあえず今はこの後だよ。ボク達はいいかもしれないけど、獣人が城内部にいるなんて知れたら大変だから……」


「それなら大丈夫さ、なんたってハティの零の魔導書には〈擬態(カモフラージュ)〉がある。それにここでの魔力は外に行かないんだ。つまり透明なって外に出ればいい。外に出れば魔力は察知されるだろうが透明になってては向こうもわからないだろうからね」


「た、確かに……ならボク達は平然と外に出るように見せかけて案内するってことだね」


「その通り。ってことでほら!さっさとやる!」


 確かに九尾が言う通り、ここでの魔導書の使用が外で感じ取れないとするならば、〈擬態(カモフラージュ)〉で透明になれば突破できないことも無い。しかし城の内部はほぼ迷路。初めてくる人狼にとっては一日経っても抜け出せない広さ。となれば騎士の二人に案内して貰った方が安全だろう。


 それに先程のゼウスの反応を見る限り、未だ騎士の裏切りは表に出ていない。信じ少女達は魔法を駆使して地下からでる。


 案の定他の騎士が集まってくることはなく、周りに注意しながら透明となった獣人を、城の外へと見送った。


「――ハティ、スコル、九尾。こっちの方でも色々と調べてみるから」


「なんかわかったら連絡するね!」


「それじゃあ」


「元気で!」


 ()()()()誰にも捕まることなく、双子達は城を、人の街(ミズガルズ)を背に、一度獣人の森(ミュルクヴィズ)へと帰るのだった。


 ふぅっとため息をつく二人の騎士。そこに、エリスとは比べ物にならない大きな闇が漂い始め、二人の騎士は背筋を凍らせる。


「……ソールとマーニさぁ、最後に言い残すことはない?」


「国王!!」


「ダメだなぁ……ちゃんと“様”を付けないと」


 ゆっくりと後ろを振り向けば、人の街(ミズガルズ)の民が国王と呼ぶ存在が立っていた。


 さらに両手には地下で見たあの四角く黒い箱が一つずつ。それらを一瞬にしてソールとマーニの肉体に捩じ込ませ、不敵な笑みを浮かべていた。


「それにしても、フェンリルの子がね……ククク、これから面白くなりそうだ」


 たった一撃で気絶させた二人の騎士を抱えぽつりと言葉を吐く。まさにその言葉は――


 ――新たな“絶望”の幕があがる合図でもあった。

第二幕を最後まで読んでいただきありがとうございます!


最後にでてきた国王。彼は一体何者なのか……あ、国王以外でですよ?


さてさて、第二幕が終わったので幕間を書きつつ修正作業に入ります。第三幕開幕まで時間を置きますがその間も読み返したり幕間を楽しんだりしていただければなと思います。

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