2-41生血を飲む魔剣
地下へと続く階段を降りるさ中、少女達はあの人物と再開することとなる――
城内に降り立った三人の少女は、丁度目の前にあった地下への階段を急いで下る。
「にしても……まさか城の地下に隔離してるとはね……何が起こるかわからないんだ、とにかく気をつけるんだよ」
と九尾が言葉を発すると、不思議と声が響き、小声でもどんな話をしているのかわかるほど大きく聞こえる。
これは先程の大声しか出さないゼウスならば、自分の声で自分が気を失ってしまうだろう。しかし、ゼウスもそこまで馬鹿ではない。ここを通る時は必ず喋ることがないからだ。
そんなことをハティ達も思いつつ、まだ下っていく。
しかしどれだけ降りても終わる気配はしない。入口の光も入っていない為、確かに進んでいるのは確かだが、階段はまだ下へ伸びている。
「長いですね……」
「疲れたよぉ〜ハティ〜」
それからいくら進んでもキリが無い階段を下ること数分。ようやく平らな地面の広間に出ると、少女達に強く確かな殺気と、恐ろしい程の恐怖が体を襲う。
殺気が感じられる方向へと視線を向けると、無造作に開けられた木製扉の向こうに、小さな黒い箱がふよふよと浮いているのが見えた。
だが、その箱に触れてはならぬと、触れればタダでは済まないだろうと、不思議と本能が体の動きを止める。
「あーあ。見ちゃいましたね。国家機密を」
少女達の動きが止まる中。一人の女性が部屋の入口から現れる。
女性は黄緑色の短髪に、長く使われていたであろう傷だらけの鎧を纏い、一本の剣を腰に携える騎士。だが、その姿と声には、覚えがあった。
「それと久しぶりです。ハティ、スコル、九尾」
「エリス……さん」
「嬉しいですね。あんな事したのにまだ“さん”って付けてくれるなんて……でも言いましたよね?また会った時は殺すって」
心臓を一突きするかと思うほどに強い殺気。ゆっくりと腰の剣を抜きとると、さらに殺気が増したかのように感じる。
暗がりでもよく見える剣は重く、一振りだけで岩や鉄などを容易に切り裂いてしまいそうなほど鋭く、刃こぼれも見つからない。
「さてと……こほん……ここは終末倉庫。国家機密であるこの場所に近づいた無関係者、人狼とその一味はこの私、エリスがここで排除します。天啓の魔法、第二節無詠唱。〈瞬〉!」
刹那、エリスの姿はその場から消える。
いや、消えた訳では無い。双子の目には捉えられないほど彼女が速すぎたのだ。ただなる突きなのに対し、瞬きも許されない刹那の速さ。
エリスが放った魔法により速度が上がっているのは確かだが、スコルが使う〈加速〉よりも何倍も、何十倍も速く双子の喉を貫こうとする。
だが、一瞬にして目の前が暗くなった以外で、奇跡的にも双子は怪我を負っていない。なのにも関わらずビシャッと、大量の水が巻き散らかされたような音と、血の匂いが鼻を捕える。
「ちっ……九尾如きが私の速さに追いついて転移するなんて……笑えますね!本当ムカつくくらいに笑える!」
いつの間にか前へと出てきていた九尾。その先には消えたように見えたエリスが、九尾の右肩を貫きつつ笑っている。
「き、九尾さん!?」
「ハティ……スコル……!早く逃げな!」
「逃げる?この私から?……実に……実につまらないことをぬかしますね」
ズズズと重い音に肉が裂かれる音、大量の血が大地に注がれる音。これら全ての音を奏でたのはエリスの剣。彼女から笑いが消えると共に、いとも容易く九尾の右腕を切り落としたのだ。
「あぁ……う゛あぁぁぁぁぁあ!!」
「あの時は特別に見逃しましたけど……ゼウス先輩を無視して殺してもよかったんですよ?それと今回は絶対に殺しますので」
刀身に滴る赤いを器用に舐めとり、どう殺してやろうかとニヤける彼女の頭の中は、残酷かつ楽しみで埋め尽くされてゆく。
いとも容易く九尾の腕が落とされ、ましてや強い殺気。もうここから足を動かすことなどできやしないと、恐怖で言葉が出ない双子は立ち尽くすしかなかった。
「呑んでください。“ダーインスレイヴ”」
一方で大量に撒かれた血溜まりに剣を突き刺すと、彼女は、たった一言を自身の剣に向け呟いた。
読んで頂きありがとうございます。
さてさて、最後に出てきたエリスの剣の名前「ダーインスレイヴ」。知ってる方もご存知かと思いますが、ドワーフのダーインが打った魔剣で、生き血を完全に吸うまで鞘に納まらないと言われていた魔剣なんです。恐ろしいですね…