2-40敵地に降り立つ
大空へと羽ばたく大鷲。
その背中に乗るは五人の少女。しかし、少女達は空から眺める景色に見とれているわけにもいかず――
「えーと……よし!翻訳完了!」
すっと白い魔導書を手に取るソールは、八頁に記されている魔法文を数分で解読し、何故かドヤ顔を浮かべる。
が、解読したことにハティが驚いただけで、マーニを除く誰しもがその顔を見ていない。
「ほら、ソール詠唱」
「うぅわかってるよぅ!」と、ドヤ顔を無視されムッとするソールは、ゆっくりと肺に空気を一杯流し込み、詠唱を始める。
「静かなる大地の森に眠る大鳥。大きく羽ばたきて私達に姿を見せよ!〈魔獣・鳥〉!」
解読した呪文を唱えると風を切る音が塔内に響く。しかし周りには何もいない。それもそのはずだ、白い魔導書……第二の魔導書〈召喚〉は使用条件がある。
一に、屋内では召喚できない
二に、半径一キロ内に、必ず外がなければならない
万が一その使用条件に満たない場合は失敗となる。しかし彼女の詠唱は成功し、羽が風を切る音が塔内に響く、つまり塔の外に現れたということ。
案の定塔の入口の先には大きな鳥が舞い降り、住民のざわつきが耳を捉える。
「ほら!早く行くよ!じゃないと極寒の地中騒ぎになるから!」
そうして少女達は外に現れた、凛とした佇まいの大鷲に乗り大空へと羽ばたいた。
極寒の青空へと飛び立つと、視界には地平線まで伸びる澄み渡った青空。されども高いが故に空気が薄く呼吸しにくく、苦しさと目眩が少女達を襲い、慣れるまで風景に見とれることは無かった。
程なくして空気の薄さに慣れ始めた頃。ようやくくっきりと空を見渡せれた。
「わぁ……!」
「空に来るのなんて初めてだから、まさかユグドラシルがこんなにも大きいなんて思ってもなかったよ……一体地平線の向こうには何があるんだろうね」
幸いにも雲一つない晴天。上空から見渡せるユグドラシルはとても大きく、暫く帰っていない地元獣人の森から、まだ行ったことのない龍国まで、くっきりと目に映った。
世界は丸いと誰かが言っているが、こうして目で捉えれているということは、世界は平坦かもしくはまだ見ぬ地があるということ。
しかしそれを今考えたところでどうにもならない。少女達の目的は人の街へと戻り屍眠る牢獄へと向かう事だ。
ならばこそ余計に大空に、空から眺める絶景に見とれている場合ではなかった。
「――もうそろそろ降りるよ!掴まって!」
飛び立って間もないというのに、もはや人の街にたどり着く。だがこのまま降りれば重力に逆らう自分達が吹き飛ばされかねないと、大声で伝え一斉に大鷲の背中を掴む。
だがこの時。少女達は人の街において、厄介な人物がいることをすっかりと忘れていた。
刹那。少女達の身体に地に足をつけている時よりも遥かに強い重力を受け、言葉を失う。
大鷲が急に高度を下げ始めたのだ。
程なくして少女達の悲鳴と同時に、人の街の上空に対空し始める大鷲。そこに聞き覚えのある声が響き始めた。
「おいおい!誰だ!そんなでけぇ魔獣を呼び出したやつはよォ!!」
その声は正しくゼウスのもの。少女達が忘れていた厄介な人物である。というのも彼は法に厳しく、魔導書の魔法であろうとなんだろうと、とりあえず捕縛しに掛るごつい男。
大鷲もまた魔導書で呼び出した魔獣。であればゼウスの声が聞こえるのも無理はない。
ハティとスコルの二人だけなら再び拘束されかねないこの状況。しかし今は同じ国騎士のソールとマーニがいる。
「ゼウス先輩。お疲れ様です」
「です!魔導書を見つけその魔導書に書いてあった魔法で戻ってきました!」
「徒歩よりは早い」
大鷲の背中から顔を出す二人の騎士。その姿を見て「なんだ、お前らか。なら問題は無いな」とゼウス。今の会話だけで上手く誤魔化せ――
「なわけあるか!確かに騎士は魔導書の使用を許可されてるとはいえ……こんな大鷲で帰ってくる奴がいるか!」
「あ、それは盲点」
「次から気をつけます!」
「全く……早く広場で降りて報告しに行け」
――大鷲で来たことに文句を言われる騎士だが、結局誤魔化してその場を後にする。なお彼女達は反省の顔はしていなかった。
「ハティ、スコル、それと九尾。私達もあと追いかけるから、一回ここで降りて前にある地下階段に入ってて」
「わ、わかりました」
少し進み、ゼウスの目が大鷲からそれた所で、ハティとスコル九尾の三人は意を決して、敵地に空から足を踏み入れるのだった。
「ボク達が追いつくまで死なないでよ、ハティ、スコル、九尾……」
いつも読んでいただきありがとうございます。
とうとう敵地に降り立ちました!でも最後の最後で騎士が言った言葉。それが意味するのは――次回をお楽しみに!




