2-39「ソールに任せなさーい!」
終末を聞いた二人の騎士は、一度休戦と称し人狼の……ハティとスコルの手助けをすることを決める。
しかし黒喰狼の元へと向かおうとした刹那、ウォンとライラプスはその場に残るといい五人で向かうことになるのだが…
確かに信じるしかない理由。それは自分達の邪魔を見破られたから。いや、違う。フェンリルが死に目の前にいる獣人……それも災厄とも言われる人狼が、この場に来るまでに不思議な事が起きていたからだ。
例えば目の前で話すハティが言う黒蝕狼。それはフェンリルが死んだ後突如として凶暴化し病を流行らせていた。故に危険を察知した国騎士が総出で捕獲し、地下空間に閉じ込めた。
例えば龍国での赤龍、青龍が喧嘩を始め、火山が活動を始めたのもフェンリルが死んでから。
例えば自分達が護る国人の街の王。王もまたフェンリルの死と同時に変化……いや変化ではなく王自体が交替した。それに加えハティが持つ二冊目の魔導書。人の街領域において魔導書の使用が禁忌とされ、他一部の魔法も禁忌とされたのも、実の所最近の話である。
とこれらの変化が終末が始まる寸前だと言うのであれば納得が行く。特に最初の二つは、終末の生物に異常をもたらす効果が発揮されたとして説明もできる。
故にマーニは……いやマーニだけでなくソールも九尾も、このことを初めて聞いたウォンですらも信じるしかないのだ。
「仕方ない……それならボク達も協力するしかないかもだね。正直な所、人狼に手を貸すのは嫌だけど……このまま放置して終末が来てソールが死ぬ方が嫌だし」
「……え?今なんて……」
「協力するって言ったんだよ“ハティ”……その耳がただの飾りなんてボクは思えないよ?ところでソールは……どうする?」
「わ、私は……でも人狼が……だけど終末も……うぅ……」
顔を腕に埋め小さく唸ること僅か数秒。「わかった」と小さく返事をすると、マーニの長袖をきゅっと可愛げに掴むと、
「マーニが行くなら私も行く……それに……私たちは二人で一人だからね!それじゃあさっさと行こう!」
「相変わらず元気になるのはやい」
「マーニに触れていれば百万力!」
「の癖に負けてるけどね毎回……魔力譲渡して担がれてもわかるから」
「そう!私たちが百万力でも負けるってそれ言っちゃダメだよ!?」
目の前の人狼に恐怖を感じ震えていたソール。こうして話していくうちに嫌いではあるが怖がる程ではないと、そして自分達と似たもの同士だからこそ別の意味では意気投合できそうだと、自ら恐怖を打ち消した。
刹那、彼女は元気を取り戻すのだが、マーニとのやり取りはもはや夫婦漫才。しかしそのやり取りだけでソールが元気になったと証すには充分だ。
「賑わってる所すまないけど、私はここまでだ。元々茶人狼に少し戦闘教えるのと極寒の地までついでに案内するだけだったからな」
「あ、私もついていけないからね。仕事中だし」
突如として話に割り入ってきたのはウォンだ。確かに彼女は極寒の地に用事があり、ついでにと案内をしたまで。ここから先は別行動になっても仕方の無いことだろう。それに別行動になるのは旅行商人のライラプスもだ。彼女もまた、たまたま鉢合わせただけで仕事の真っ最中。いくら義理の親といえどハティ達の手助けは極力しないのだ。
だが九尾は違う。家を出た放浪者故、ハティについて行く他ない。いや、それ以外にも未だ使える魔法が少ないハティと、戦闘慣れしていないスコルを放って置くことができないのだ。
「じゃあハティとスコル。ボク達とそこの九尾の五人ね。ハティ。いきなりだけど第二の魔道書八頁〈魔獣・鳥〉を唱えて。直ぐに向かった方がいいでしょ?」
「え、あ……わ、わかりました!八頁ですね!?えーと……」
割れた氷獄の実にガブリ付きつつ、白い魔導書を開く。のだが、呪文が読むことができなかった。というのも古代の文字とは違う、見慣れない言語で書かれてるのだ。
「世話やけるね……ソール代わりに読んで上げて。ボクも読めないんだから」
「はーい!」と元気よく返事をするソールは直ぐにハティの近くへと寄る。とはいえ、先程殺されかけていたこともあり、やはり怯えた様子も見えた。が、今は休戦かつ、一時的な仲間。ならば震えていても仕方ない為、こうして近づいたのだ。
「なるほどね。よしここは私!ソールに任せなさーい!」
読んでくれてありがとうございます。
いよいよ敵地に潜り込む!と思えばそれは次回になりそうです……
第二幕クライマックスと言えど終わりはまだまだ先!次回も楽しんでいただければなと思います。
それではまた次回!