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双子獣人と不思議な魔導書  作者: 夜色シアン
第二幕・牙を穿て
53/85

2-37封印

黒狼の力が目覚めてしまったハティ。仲間だと言うのに我を忘れ戦場は血で濡れていく。


そこに突如として現れたライラプス。彼女曰くスコルなら今のハティを抑えれるというのだが……

 腕を振り上げたハティは不思議と動きが止まる。


 さらにゆっくりと強ばった右手の拳が開かれソールが地面へと落ちる。だが未だ我を忘れている状態。そんな状態であれば手を離すことも動きが止まることもない。なのにも関わらず我を忘れたハティの意思とは裏腹に動きが止まり、()()()()拳を開けられたのだ。


 それはソールがほぼ瀕死の状態になり、幻術と睡眠草の効果に見せ掛けた魔法で眠っていた九尾とウォンが起きたからこそ。


 どんな理由でなど九尾もウォンも知った事ではなく、一目で暴走しているとわかりハティを止めるべく魔法で動きを封じ力も弱めたのだ。


「悪夢から覚めて悪夢とかやめて欲しいものだね!ハティ!」


 しかし少女には言葉など届かない。


 だが九尾の魔法により、ソールとマーニをその場から遠く、壁付近まで避難させることができた。されどもウォンには回復手段はなくソールから溢れる血は止めることが出来ない。


「おいハティ!本当にどうしたんだ!」


 とウォンが叫ぶがハティには届かない。


 刹那、魔力が切れた訳でも無いのに自ら九尾の魔法を破りその場から消える。いや正しくは早すぎてその場にいる誰しもが見えなかったのだ。気づいた時には九尾の小さな胴体に幾つもの切り傷がついているほどなのだから。


 一方、喉を潰されかけていたスコルはこの状況を理解するのにとても時間を費やしていた。


 たった一瞬で豹変したハティ。そしてあんなにも優しいハティが今はまるで別人の如く無差別に殺しにかかっているのだから。


 そんな時だ。


「派手にやってるねハティ。鎖も外れてまぁ……全く……」


 突如として塔の中に入ってきたのはライラプスだった。しかも豹変したハティを見てもとても冷静。冷静が故に大きなリュックを下ろすとその中から一本の鎖を取り出して。


「スコル!」


「うひゃぁってライラプスさん〜……ひぐっ……ライラ゛プズざぁぁぁん!」


「あーはいはい泣くな泣くな。泣きたいのは分かるけど。とりあえずスコル。あんたにしかできないことを今から簡単に教える。いいね!」


 突然現れたライラプスの顔を見ると一気に涙が溢れ出るスコル。何せハティの次に頼れて義理の親でもあるのだ。顔を見ただけで気が緩み抱きつく形で泣くしかスコルはできなかったのだろう。


「でも゛ぉぉぉ!バディ゛がぁぁぁ!ギュウぢゃん達がぁぁぁ!」


「ああもう……ハティはともかく九尾とウォンは大丈夫だ。今この状況を変えることができるのはスコルしかいない……分かるね?早くしないと皆死ぬよ!」


「わ゛がっだぁぁぁ!うぁぁぁん!」


 そして一分の時を費やし、スコルは久々に人の話をちゃんと聞き、一つの技を、暴走したハティを止めるすべを習得した。


「――スコル。復唱だ!暴走せし狼よ!我が身を持って封印する!」


 拳ごと鎖を地面に打ち付け真剣な眼差しで少女は叫ぶ。


「暴走せし狼よ!我が身を持って封印する!」


 刹那、グンっと鎖に命が宿ったかの如くひとりでに動き、力強くハティへと向かっていく。強く、強く……腕が持っていかれるかと思うほどに強い。


 だが鎖は動くハティを捉えきれず途中からふにゃふにゃと不安定な形になってゆく。このままではハティにたどり着く前に地面へと落ちてしまいそうだ。


「気を緩めちゃだめだよスコル!ハティを目で追いかけてさっき言った通り自分の身体とハティを結ぶイメージするんだ!」


「う、うん!」


 今も尚暴走するハティは九尾とウォンを相手に戦っている。それも人間なら捕らえきれないほどに早い。しかしスコルは獣人。それも狼の血を持っている。ならばこそハティがどれだけ早くとも目で追うことは可能であった。


 そして一瞬の時を見逃すことは無かった。


 目で捉えふにゃふにゃとした鎖を伸ばすべく意識を研ぎ澄ます。それも捕まえるその一瞬だけ……そう一瞬だけ研ぎ澄ませば十分だった。


 ふにゃりと曲がった鎖が真っ直ぐ伸びハティの右腕に絡む。


「今だ!スコル!」


「うん!……結べ契鎖!」


 地面へと叩きつけた鎖を今一度力強く引き自らの腕に巻き付ける。


 すると突然電気が身体中に走り始め激痛が生まれ、さらに暴走しているハティへと力を奪われつつ少女の闇の力が身体を侵食し蝕む。


 だがハティとスコルを結んだ鎖は契を結び終えたために消えてなくなり、力が逆流することはなくなる。


 ――――――


「で、今に至るわけだね」


 何が起きたのか整理し終えた頃。ソールの震えは治まっていた。しかし恐怖が浮かぶ顔は治ることは無い。


 ふぅっと一息着いたところで暴走していたハティは。


「そんなことが……でもその……黒狼に私とスコルさんを結ぶ鎖って一体……」


「黒狼は……フェンリルの血でね。ハティとスコルの本能の力でもあるの。スコルは生まれつき制御できてるけど、ハティ。あんたは不思議と制御できてないの。でハティの黒狼を抑えるための鎖でいつも押さえつけてるのよ。ほら覚えない?スコルだけ本能的に動くのに自分だけ本能に駆られないってこと」


「そういえば……」


 確かにハティは本能に駆られることが滅多にない。現にスライムの時も最初に触れたのはスコル。動くものを追いかけるなんてこともない。


 がそれらは本能を封印されていたからこその反応。でなければハティもスコル同様、本能で動くだろう。


「まぁ、今は封印したから安心しなさいなソール。もうあんたを喰わせはしないさ」


「ほ、本当……?」


「少なくともスコルが死ぬか、封印を解かなければね」

読んでいただきありがとうございます。


この話からようやく第2幕のクライマックスになります。


約束通り勝負事に勝った少女達は二冊目の魔導書と氷の実を手にする。そしてマーニから黒蝕狼(ゲルド・ウルフ)の居場所を聞き、向かうが、マーニが教えた場所で待っていたのはーー

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