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双子獣人と不思議な魔導書  作者: 夜色シアン
第二幕・牙を穿て
51/85

2-35目覚めし本能

目眩が治まるといつの間にかハティの手は赤い血がこびりついていた。本能が赴くままに一人の人間を喰い殺そうと重い足を進めるのだが

 ――ふとハティは目を覚ました。


 いや目眩が治ったのが正しいだろう。気づけば少女の身は酷く疲れ果て息も上がっている。


 ハティの吐息以外静かなその場にはポタポタと水が滴り落ちる音が響き渡る。それにあたりはいつの間にか花畑ではなく白煉瓦(ハクレンガ)でできた壁と石の地面。


 地面に不思議と血溜まりができている中。少女はこそばゆい震える両手を視野に入れた。


 少女の両手はこれでもかと繊細な赤色に包まれ、華奢な指先には獣の如く鋭く尖った爪が伸びている。


 続いて口内に溜まった唾を飲み込むと鉄の匂いと味が味覚と嗅覚、そして脳を支配する。


 これは夢だ。そう夢……


 そう言い聞かせる少女の前方にオレンジの髪が血色に染まった傷だらけの人間が寝そべり、その手前で二人の獣人がこちらを向いて何かを訴えている。


 しかしハティにはその言葉が聞こえていない。ただ夢だと言い聞かせると同時に傷だらけの人間を殺せと喰えと本能が訴えているだけ。


 重たい足を引きずり前へと歩みを進める。その度二人の獣人は強く訴えるが今の少女にとっては知ったことではない。


 ただ本能に従って動く人形となり人間を喰らうだけ。


 そうそれだけだ。


 刹那足を前に出そうとするとずるりと何かを引き摺った感覚が足に伝わってきたのだ。


 が、自身の行動を邪魔する敵だと少女は思い込み、何かを引き摺ってもなお歩みを進める。


 次第に足の重さは無くなり、目と鼻の先には二人の獣人が。それも一人は小さな子供。もう一人は全身毛で覆われた獣人。その二人は必死にハティを止めようとしているが今の少女には邪魔に過ぎず、退けるために右腕で大きく薙いだ。


 それも予想通りにその薙ぎで二人は飛んでいく。されどもハティは邪魔な獣人など見る必要もなかった。


 ヒタヒタとさらに歩みを進め、息も絶え絶えな一人の人間の元に等々たどり着いてしまう。


 殺意が籠った冷たい目で見下ろすと、確実に殺そうと人間の喉にめがけ鋭い爪を突き刺そうとした瞬間。ガシッと後ろから誰かに動きを抑えられる。


 刹那――


「ハティ!」


 と少女の名を呼ぶ声が耳に残る。


 それも真後ろからの声。


 最愛で唯一の家族である……スコルの声。


 その一言だけでハティを止めるには充分すぎた。


「ス……コル……さん……?」


「もうやめでよバディ゛ー……わ゛だじはむじだがら゛ぁぁぁぁぁぁぁぁ!」


 泣きながら少女に抱きつきか細い声を発するスコル。その声を聞くだけでハティの動きはピタリと止まり、絶望しか映ってなかった瞳には光が灯り涙が溢れ出ていた。


「はぁ……ようやく治まったね……このバカ!」


 我に返りスコルから解放された途端、意識が朦朧としている人間……ソールの前にぺたりと座り込むと同時にスコルでも薙飛ばした九尾とウォンの声ではない誰かの声が怒りを乗せた声で座り込んだハティを叱る。


 だがその声はとても懐かしく、暖かな声でもあった。


 涙を浮かべつつ振り返れば泣き続けるスコルの奥に垂れた犬の耳が特徴的なライラプスがもっふもふなコートを着込み、困った表情を見せつつ立っていた。


「あんた……よく無事だったね本当……何したかは……覚えてない?」


「は、はい……でも恐ろしいことがあったのは……」


「そうかい……そこの子供はあんたがやったんだ。もしスコルが止めてなければそいつも……いや、自らの仲間ごと皆殺しにしていただろうね」


 ほらと飛ばされた九尾を指させば、傷だらけの九尾とウォンが血塗れになり息を荒らげ横たわっている。また薙ぎを直撃したウォンは右脇腹から五本もの鉤爪でできた傷が深くへそ部まで伸びている。


 見るからに致命傷ではあるが、息はまだしている。一方九尾はウォンと同時に飛ばされただけでその時は身体を強くうちつける程度ではあった。しかしハティが我を忘れている間に受けた傷があり、九尾も致命傷である。


「き、九尾さん……!ウォンさん……!!どうして……」


「ついさっきあんたがやったんだ……とりあえず私はあの二人を手当するからこれでそこの子供を手当しな。詳しいことは後で聞くから」


「は、はい……」


 と地面に置いてあった大きな荷物から布切れと傷薬を取り出し、乱暴にハティに放り投げる。


 それを受け取る際に手を見れば、鋭く伸びていた爪はいつの間にか戻っておりハティに訴えかけていた本能は消えていた。


「バディ゛〜〜!!ごわ゛がっだよ゛ぉぉぉ!」


「わわ……スコルさん……とりあえずこの人を……ってライラプスさん……この人さっきまでスコルを殺そうと……」


「文句言ってないで手当しな!それとも何か!今ここでそいつを皆殺しにして悪者になろうってかい!?なぁら止めはしないさ!好きにやるといい!ただね、後悔したくないなら手当するのが妥当じゃないのかい!?」


「わ、わわ、わかりました!?」


 ライラプスの言葉に言いくるめられ何故か敵であるソールと、近くで眠るマーニに手当を施すこととなった。

52話を読んでいただきありがとうございます。


ようやく第2幕クライマックス!長かったねぇ……まだ終わってないけど

さて次回はライラプスがここに至った経緯、ハティは一体何をしたのか、どうなったのかを書こうと思います。お楽しみに!


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