2-34鎖
互いを愛し、相手を穿つ。
二人の騎士はまさにその状態。
隙だらけな騎士を目の前に動くことができない少女は窮地にたたされる
「「取っておきは絶対に見破れない」」
二人の騎士はそう言いきれる自信が確かに存在していた。というのも、ソールとマーニの二人の力を合わせた際、あのエリスやゼウスですら見破ることができない幻覚を作り出す。
しかしその幻覚にも魔力が高いマーニがソールと唇を重ね魔力を譲渡しなければならない弱点が存在する。
それを知るエリスもゼウスも、二人の騎士には負けることは無いのだが、今現在相手をしているハティとスコルは違う。今初めて会ったばかり故その弱点を知るはずもないのである。
だからこそ二人の騎士は自信満々に見破れないと言い放てるのだ。
「ん……あ……」
「ふっ……んぅ……」
色っぽい吐息を零しつつ、ねっとりとした熱い長いキスを交わし続ける二人の騎士。手も絡め合いまるで見てはいけないのを見せられている気分になるが、ハティもスコルも顔を赤らめ生唾を飲み込む程ソールとマーニの情熱的なキスに思考を奪われ隙だらけな騎士に近づくことを忘れてしまう。
「な、なな!ナニしてるんですか!?」
「ぷは……ナニって……人狼ちゃんもやったことあるでしょ……知ってるよ?」
「ボク達と似たもの同士」
「つーまーり!女の子同士で愛し合ってるってことさ!」
「とりあえずソール。いいから続き」
目の前でイチャイチャと柔らかな薄紅色の唇を重ね合わせる光景を見せつけられ、つい魅入ってしまう少女達。
だが何をしているなど少女にとって人に聞ける立場ではないのは確か。しかし自分達はいいとしても他人のそれを見てしまえば恥ずかしいの一言でしか表せれない程に顔を赤らめるしかない。
赤く染まり行く双子の様子を見るのを楽しむかの如く騎士の互いを愛する行為こと魔力譲渡は激しくなる。
隙だらけな今がチャンスだとスコルが一歩踏み出すが、踏み出すのが遅かった。
というのも、スコルが勇気を振り絞り一歩前へと進んだ瞬間に騎士の唇は遠く離れたのだ。まさにそれは魔力譲渡が終わった合図。魔力譲渡を終えたマーニは中身が無くなった抜け殻のように全身の力が抜け、そのままソールに担がれる事になる。
されども騎士はその時間を無駄にはしない。
「……!!」
「スコルさん!?」
「……!!?!」
突如ハティの隣に立つスコルがとても苦しそうな表情を浮かべつつ喉を抑えていた。
否。正確には自分自身で喉を潰そうとめいっぱい握っているというのが正しいだろう。しかしそれはハティのみの本当の光景。スコル本人は縄で首を絞められている光景が見えている。さらに周りの音も聞こえていない。
「その人狼ちゃんの腕は今は私のモノ。そして残り十分の命!さぁてこれで追いつく手段がなくなったね!あ、攻撃を一度でも当てても追いついたことにしてあげよう!でも〜君には無理だよね!だから降参って手段も用意してあげよう!」
「っ!〈風刃〉!」
「ぶっ!ははは!馬鹿だね!挑発に乗ってくるやつ初めて見たよ!」
大切な家族が、恋人が、仲間が今まさに死のうとしている状況。一刻も早くソールを捕まえてスコルを助けようと必死に焦るあまり、騎士の挑発に乗ってしまう。ましてや焦りすぎてか乱暴にただなる〈風刃〉を放つ。
が、挑発と言うだけあり、ソールがいた場所にはいなく、最初と同じように空を飛んでいる。つまるところ最初から当たる気などもうとうなく、一瞬にして空へと飛んでハティの魔法を避けていた。
それに目視できない速さで動かれているからこそハティの魔法は対応もできない。故にいくら魔法を使えど騎士には通用しない。それに刻々と時間は迫っている。
だからこそ少女はなにも出来ない。また目の前で家族が無くなるのを見てるしかなくなり、絶望的なこの状況に目の前が真っ暗になりそうなほど眩暈が生まれる。刹那、目眩によりふらつく体をよそにバキンと鉄の鎖が一つ、また一つと無理やり引きちぎられたような音が少女の耳を貫いた。
さらに音が鳴った直後から全身にかけて肉を割かれているかのような激しい痛みに襲われる。
ずっと。
一秒が長く感じるほどに。
しかしスコルや騎士ですら、ハティの足を、腕を、頭を……少女の体の部位全てに鎖が絡みついていることは知るはずもない。
何せ少女を、ハティだけを襲う金属音と激痛はその鎖によるものなのだから――
51話を読んでいただきありがとうございます
ハティにまとわりついた鎖は一体何を示しているのか……そして無事にスコルを、九尾とウォンを助けることが出来るのか……お楽しみに!