2-33いたずらな追いかけっこ
マーニから追いかけっこを挑まれた双子の人狼。
しかし走っても走っても二人の騎士には追いつくことができず――
「欲しかったら追いかけっこしてよ」
「お、追いかけっこ……ですか……」
静かに滴る血をそっと拭いつつ、ズキズキと切り裂かれた頬の痛みに耐えつつも少女は立ち上がり問う。
その言葉の返事としてか「そう!追いかけっこ!」と元気よくソールが言うと。
「でもね!私達二人でも人狼ちゃんに足の速さで勝つことはできないと思うんだ!だからぁ……ポコって邪魔するね!それじゃすたぁーと!」
その合図と共に二人の騎士は走り……始めなかった。ただ立ち尽くすソールにマーニが近寄り手を繋いだだけである。
どう考えても隙があり過ぎる。鎧も着ないただなる少女がそこにいるだけにしか見えないのだから。
しかし、しかしだ。
無防備の騎士を目の前にして一歩も、一歩たりとも前に進むことができない。力を入れても、地面に足を縫いつけられたようにぴたりとくっつき離れることが無い。
まさにそれが二人の騎士が最初に行った邪魔である。
「動けないでしょ〜!」
「追いかけっこ……じゃないんですか……」
「いや、今からだから。ソールがフライングしただけ」
「だってー!力の差ってのを見せつけたいじゃん!」
「……まぁ、今からが本当の追いかけっこだから。それじゃ改めて」
ソールのフライングにより余計な緊張だけが走る中、二人の騎士は互いの手を解けぬように固く、力強く握りしめ息を揃えると。
「スタート」「スタート!」
二人の声が重なり合った刹那。手を離すと一瞬にして距離を置かれる。とはいえいうだけありハティとスコルの身体能力では簡単に追いつける程度に遅い。
だからこそ地面の拘束が騎士の声と同時に解かれたと同時に、双子は走る。
走る。
走る。
しかし追いつけるほど遅いはずなのに、一向に距離を縮めることが出来ない。
いや、正しくは空気が縮めさせてくれないのだ。
前へと進めど進んだ分だけ手を繋ぎ楽しそうに走る騎士は空気が風となり、ましてや味方をし早くなる。逆に進まなければ風は生まれずゆっくりになる……と摩訶不思議な邪魔に遊ばれ、必死に走っても辿り着くことは無いのである。
が、それならばその力が対応できない速さで走れば追いつくのではないだろうか。とスコルが脚に力を込めたその刹那。
スコルは転んだ。
そう転んだのだ。
力を入れすぎたわけでも、蹴りに失敗したわけでもない。ただただ足を滑らせ、前に転んでしまったのだ。
よくよく見れば足を滑らせた所はツルツルの氷と化している。しかし、前を向いていた双子はそこに氷がある事など知る由もない。何せそこには氷なんてひとつもないのだから。
となれば考えられるは――
「隙だらけだよーだ!」
「〈加速〉を使おうとしても無駄。ボク達の邪魔をそんな簡単に敗れるわけが無いね」
邪魔だ。
とはいえど目視していないのに、これ程まで的確に邪魔ができるだろうか。
足音を頼りに邪魔をしたとて、二人の騎士が邪魔をする時には前に進み的がずれるはずである。
「だ、大丈夫ですか!スコルさん!」
「あぅーー顔が痛いだけだよーー」
力が地面へと伝わり勢いよく転んだにも関わらず、ムクリと起き上がるスコルは顔を打ち痛々しい程に赤くしただけで、傷一つない。
「なら安心しました……でもどうしたら追いつけますかね……」
立ち止まり二人の騎士をみてもただただ遅く。その場から進んでいないようにも――
「もしかして……」
遠くで走る二人の騎士を見つめている中である疑問を浮かべたハティは、ふと後ろに振り返り未だに眠る九尾とウォンがいる場所を見つめる。
「やっぱり……」
ハティが見つめる先には九尾とウォンが先程と変わらずそのままの状態で眠っている。
しかし二人の騎士を追いかけ続けているため、眠る仲間はもっと遠くにいなければおかしいはずだ。なのにも関わらず、走り出した時と変わらない距離に彼女達は眠っていたのだ。
「私達はこの場から動いてない……!?」
「またまたぁ〜ハティは変なことを言う〜。さっきまで走ってたのに動いてないわけないじゃん〜風も感じてるし周りだって動いてたし〜」
「だとしたら九尾さんとウォンさんがそこにいるのはおかしいんですよ……だから、だからこそ!これは元々追いつくことができない追いかけっこ!そうじゃないですかソールさんマーニさん!」
「ハティ〜あっち敵だから〜さんつけなくていい気がするよ〜?」
「癖です!」
夫婦漫才のようなやり取りをするハティとスコル。しかしハティが言った、『追いつくことができない追いかけっこ』は確かに正解である。
正解であるが故に前を走る二人の騎士。ソールとマーニはピタリと足を止めた。
「流石ボク達と同じ二人で一人なだけあるね」
「邪魔が仇に出るなんて久々だよ!やってくれたね人狼ちゃん!!」
「でもボク達の」「私達の」
固く結んでいた手を離しこちらを向いた二人の騎士。しかしひとつの邪魔を見破られ焦る様子はなく。それどころか余裕な表情を見せる。
しかしその間も互いの距離は縮めることができない。まだ邪魔が有効なのだろう。
だからこその余裕。そして、その余裕は二人の……いや、二人で一人となるための糧となる。
「「取っておきは絶対に見破れない」」
刹那。二人の騎士は、ハティとスコルがやっていたように、互いの柔らかな唇を重ねた。
祝50話!!
そして読んでくださりありがとうございます。
いやはやようやく最新話投稿できました。
今回百合を入れようと思い、書いてましたが中々難しく最後に若干百合要素出てきただけでしたすいません……
しかしながら多少でも百合を入れれたのは良かったです。
さて、次回はフュー○ョン、ハッ!
な回になります……え?