2-29消えた氷獄の実
フェンリルと九尾が発した終末という言葉。
それは双子達のような獣人や竜人、地底人など人ならざるものを消し去る兵器でーー
「何って終末のこと。私達獣人や龍人とか人外を滅ぼす為の兵器よ」
その言葉にその場は時が止まったようにしんっと音が、声が無くなる。
しかし、静寂の場を崩すようにして九尾が言葉を発した。
「それにしても終末……完成してたのかい……あの無慈悲極まりない兵器が……壊したといえど力は健在だとするなら……こうしちゃいられないね、行くよハティ!スコル!」
「え!?」
と、急に少女達の手を取るとすぐさま死国から外に向かう門へと向かって走り出す。
急に連れていかれる我が子をみて驚く様子はないフェンリルだが、手を取られた少女達の方が驚きが多く、別れの挨拶をする前にその場を離れてしまっていた。
「九ちゃん〜行くってどこに行くの〜」
「そりゃあ決まってるだろう。零の魔導書を完成させるための旅さ。……まぁ、もう始まってるけどね」
と、ツクヨミの案内無しに死国から抜け出しても、手を離しただけで雪を舞い上がらせつつ白煉瓦の塔へ走り続ける。
しかし雪とその下に隠れた氷が少女達の邪魔をし始める。自然現象とはいえ急ぎ向かうものには氷は天敵と化し少女達は滑り転ぶ。
「うきゃっ!」とどこから出したかすらわからない声を言わせ全員が尻もちを着く。
「痛ったた……腰が死ぬところだったよ……」
「おばあちゃんじゃないんだから〜」
「ほう?今くそババアって言ったかい?」
「まぁ、その姿じゃ仕方ないだろ……はぁ漸く戻ってきた……」
被害妄想が激しめの九尾が無理がある聞き間違いに殺気をだすが、横から聞き覚えのある声が耳を貫くと同時にペしっと九尾の頭を軽く叩く腕が見える。
ふっとその腕を辿り横を見れば、やはり全身ふわもこな毛で覆われたウォンが立っていた。
しかし彼女の表情はどことなく困っているような、焦っているような表情がうっすらと見える。
「おい人狼。お前らが死国に行ってる間に氷獄の実について調べてやったぞ。ありがたく思え」
「え、あ、ありがとうございます!?」
「ま、お礼を言うお前らは馬鹿だが。ってそうじゃなくて、その氷獄の実についてだが、苗が一切ない。私達が来る前に人の街の騎士が来て全部取っていったんだとさ」
少女達が起き上がると同時に彼女は手に入れた情報を話す。しかし、彼女が発した言葉に少女達は思考が停止する。
それでも構わないならとウォンは一度少女達を氷獄の実が成っていた場所へと案内する。
聞けばそれらの情報は極寒の地に居た人に聞いたものらしく、彼女も少女達が帰ってくる前に自身の目で見たため本当にないと言いきれる。
暫くして白煉瓦の塔を過ぎ、極寒の地の街を抜け雪原に抜ける。されども歩みは止まらず、何時しか厚い氷の上に立っていた。見渡せば数箇所に抉れた痕跡が残っている場所がある。
まさにその場所に苗があったのだろう。
「ここが氷獄の実がなる苗があった所だ。一箇所だけ抉れてるの見えるか?」
「ま、まぁ……でも本当にそこにあったんですか?」
「色々聞きまくった結果全員一致でこの場所を指してたから間違いない」
「そうですか……」と再び魔導書の魔法の解放ができないと知るハティは自慢の獣耳と尻尾を元気なさそうに垂らせ悲しげな表情をうかべる。
しかし、少女の気持ちなど到底わかるはずのないウォンは。
「ふっ……たかが木が無くなった位で何をしょげている」
「し、仕方ないじゃないですか!」
「逆ギレか?これだから人狼は……私は最初からその試練とやらを達成できないなど言ってないぞ」
してやったぜと、逆ギレするハティを見てドヤ顔でその言葉を吐き捨てる。
とはいえど彼女の言うことはどういう事なのか。そもそも苗がなく実が手に入らないというのに、彼女の自信はなんなのか。
それは次に発せられた言葉が物語っていた。
「まだ見てないがあの白煉瓦の塔の内部に一つだけあるそうだ。それも極寒の地が出来た当初からあるとか何とか。それにしても……フフ……あの人狼が意図も簡単に騙されるとはな……」
ドヤ顔しつつ、放たれた言葉。それはしょんぼり顔を浮かべ、ウォンの言葉に怒ったハティも、近くにいるスコルも希望を持たせるものだった。
44話を読んでいただきありがとうございます。
ふう、あと少しで投稿時間が過ぎるところでした。
さて、今回はほのぼのとした回になったと思います。近いうちに百合回も考えていたりいなかったり……
それではまた次回!