2-28弐の魔導書の在処
一瞬の隙をつかれ、少女達の運命はそこで途絶えると思った矢先。九尾が盾になるように現れると、
「あたしの取っておき、見せてやるよ!」
と、彼女は宙に円を描き始めた。
「あたしの取っておき、見せてやるよ!〈天焦がす収束の光〉!」
その言葉と共に、暗闇で満ち溢れた死国が強く照らされると、うじゃうじゃと集っていた死霊を一瞬で消し去る。
が、強い意志を持ったフェンリルは消えることない。いや、正確にはスコルが偶然にも光を遮り浴びずに済んでいた。
「さて、まだやるかいヘル」
「チッ……獣人風情が……ほら、返してやるよ。空白ばっかで傷なんか治せそうもなかったからな……フェンリル、後はすきにしろ。ただ外には出れないからな」
と、乱暴に零の魔導書を地面に叩きつけ捨てると、彼女は宮殿の中へ去って行く。
それを見届けたスコルは、動けないハティの代わりに即座に零の魔導書を取りに走る。
「そう言えば母さん……さっきの魔法は……」
「弐の魔導書のサモンズ……零の魔導書とは違って古代語を使ってないものよ」
「ま、魔導書が他にも!?」
「九ちゃん……もしかして話してないの?」
「言う必要がないと思ってね」
金色のふわっとした尻尾を揺らす九尾がその言葉を吐くと、はぁ……と短い溜息をつくフェンリル。突然彼女は魔力切れなのにも関わらずムクッと起き上がる。
いや、この短時間で動ける程に魔力が回復したのだ。何せ彼女は死者。血の巡りが無い分魔力の回復が早い。
否。魔力の回復が早いのは彼女の特有のもの。であれば魔力切れを起こしたのは何故か。
それは死者である事が原因。死体である自らの身体を動かすにも魔力が必要なのだ。故に錬詠唱の魔力消費も、最後に放った〈氷獄魔・鳥〉の消費魔力も通常よりも多く、それを計算していなかったからこそ魔力切れを起こしたのである。
ふぅっとフェンリルが完全に起き上がると、我が娘であるハティを起こす。
瞬間、魔導書を取りに行ったスコルが黒い土が着いた魔導書を持ってくる。今更ながら死国の地面は土であることを知ることとなる。
「ちょうどいい所に戻ってきたわねスコル。魔導書の事話す前にそれ見せて」
「ん〜いいよ〜」
と、ようやく普通に話せるようになり、パタパタと茶色の尻尾を振りつつ、少女は魔導書を渡す。
するとパラパラと魔導書を見始め、すぐに閉じる。
「ーーなるほどね。最初の方しか解放してないのね。見たところ牙を穿ての解放が難しいって所かしら」
「ああ、あんたが死んだ後、黒蝕狼は人の街が捕獲し尽くしてね。今は隔離された場所にいるって聞いてるね」
「はぁ……めんどくさい事してくれたわねぇ……ならちゃんと魔導書のこと伝えないとだね。本当は妖精に教えておこうと思ったんだけど、万が一のこと考えて教えてなかったし……いい?魔導書はハティも気づいてるとおり、この魔導書だけじゃないのーー」
零の魔導書を少女達に返還してから彼女は知ってる限り……いや、全ての魔導書のことを知るフェンリルだからこその情報が少女達の脳内を行き交う。
まず話されたのは壱の魔道書、〈天啓〉。それは、以前エリスがカバンに付与していたように、主に強化や付与を主体とした魔導書である。
そして問題の弐の魔導書、〈召還〉。名の通り使い魔を召還する為の魔導書。
壱の魔道書は既に手に渡っていたが、弐の魔導書は渡っていないと信じ、極寒の地の白煉瓦の塔にあると彼女は断言する。
また参の魔導書〈強奪〉や他の魔導書も存在すると言うが、どこに隠したかは忘れたという。
「ーー最後にその零の魔導書ね。その魔導書は私の失敗作でもあるのだけれど、全て解放したら一つの鍵が出てくるの。その鍵は終末の停止ができる鍵」
「終末……?」
「そうよ。だからこそハティ。スコル。油断しないようにね」
「って、ちょっと待ちな……あんた今終末って言ったかい!?」
「えぇ、止めれなかったから、ある程度はぶっ壊した」
真剣な眼差しを浮かべるフェンリルを他所に、終末の名を聞く九尾は九つの尻尾の毛を逆立て、恐ろしいものを見てしまったように顔を青ざめていた。
「まさか……あんたが処刑された理由って……」
「終末の阻止未遂と、英雄オーディーンを噛み殺したって理由かしら。表状では貴族を暗殺したとか言ってるみたいだけど」
「……はぁ……何でそんな重要なことを相談しないんだい!全く……捕まって死んでちゃ元も子もないってのに」
大きく溜息を着いたところで、茶人狼のスコルが話に割り込んだ。
「あのさぁ〜お母さん、九ちゃん。さっきからなんの話ししてるのさ〜」
43話を読んで下さりありがとうございます。
令和2日目。実感がわかないものの、時間が経つにつれて令和だなと最近しみじみ思います。
さて、今回はいろんな情報を提示致しました。
しかしその分、最後に書いたラグナロクについてが次回になってしまったのが痛いです……
ともあれ、次回もお楽しみに!