2-26フェンリルと蘇る記憶③
殺られかけたハティは、スコルを救い出すことに成功し、ある思い出を思い出したーー
ーー時は一度十二年前に遡る。
その頃のハティ達はまだ三歳。それに今敵として戦闘を繰り広げているフェンリルも、未だ処刑されていない話。
「ママ〜それなぁに?」
「これはね〜私の大事な本よ。零の魔導書」
幼きハティが、ガチャリと茶色のドアを必死に開け、目に映った椅子に座る母親ーーフェンリルが持つ一冊の本に興味が湧き上がる。
「ぜろのまどーしょ?ねぇねぇ!見せて!」
「え!?うーんハティ。あなたにはまだ早いかな?」
「見せて見せて〜!」
「聞いてないし……ま、いっか!よしそれじゃあここに座りなさい」
「やったぁ!」
と、幼きハティは母親の足に、とすっと軽い音を言わせ座ると一冊の本、魔導書を覗き込む。
されども魔導書には書きかけの文字や、読めるはずもない古代の文字がぎっちり詰まりつつ、かつ綺麗に並んでいる。
「良い?ハティ。この本にはね魔法が詰め込まれてるの。魔法っていうのはーー」
ーー詠唱だけじゃなくて、閃きも大事なのよーー
ーー時は流れ、現在進行形で母親と敵対する今。最初に動いたのはハティだった。
最早コツを掴んだ風の刃を無詠唱で幾つもフェンリルへ向け、放つ。
されどもフェンリルには当たることは無い。はずだった。
いや、正確には檻の天井ギリギリまで飛んだ彼女に、直線上に進む風の刃は当たることはないはずだった。
宙高く飛んだ彼女の身体は無防備。それを狙っていたハティは絶好の機会を逃すはずもない。
「今の魔法……直線にしか進まないなんて誰がいいました?」
直線に飛ぶ半透明の風の刃は鉄の檻の端にたどり着くと、カクンと進行方向を変えて宙に浮くフェンリル目掛け加速する。
だが本来風の刃は直線上にあるものしか切断しない。それは大魔法使いであるフェンリルも知っていること。だからこそーー
「なっ!?」
横目で捉えた時には目の前。身体を捻るものの、完全には回避できず残った左腕に切り傷が生まれる。しかし不思議と血は出ていない。よく見れば切断された右腕からも一滴たりとも垂れているものが垂れていない。
「ど、どうして……風の刃は直線しか……」
「だから誰が直線に進むって言いました?……思い出したんです。母さんから教えて貰った魔法のあり方を」
腕に切り傷を負いつつも、彼女は黒い地面に足をつける。されども攻撃はせず、ハティの動きを伺いつつ話しを耳に入れる。
「私が教えた魔法のあり方……まさかあの時の……?」
「はい。母さんがまだ捕まるまえ、零の魔導書を見せてもらい魔法を教えてくれたあの時です」
少女とフェンリルが言うあの時。それは少女達がまだ小さく、親のフェンリルが処刑される前の話。
「その時、母さんはこう言ってましたよね……魔法は詠唱だけじゃなくて、閃きも大事なのよって」
「え、ええ……それが今のとなんの関係が……」
「まだ話は続きますよ?」とハティ。
「それを思い出して、私はひとつ閃いたんです。風の刃に工夫できないかって。で風は熱で上昇するから、火の魔法を組み込むことを閃いたんです」
「な……魔法を組み込むなんて……でも手の内をあかしたんだから、もう私には通用しないよ!」
「いいえ。通用します。いや、させます。今の私にはその自信が溢れ出ているのです!行きますよスコルさん!」
「うん!私達が強くて互いを愛してるって伝えよう!」
「それは言わなくていいです!?」
「え……ハティ、スコル……私が死んでる間にそういう関係に……?」
折角のいい場面(?)を台無しにするように、スコルは自信満々の顔で余計な事を口走る。しかし、スコルにとってハティは将来の嫁候補となるほど大好き。ならば、今言わずしてどうすると言うことだろう。
が、この状況下でそんな事を口走れば、親は黙っていない。証拠にさらに殺気がーー
「いやぁ……私が死んだ後、仲悪くならなければいいって思ってたけど、それ聞いてほっとしたわ……まぁ、家族間恋愛、それも同性なんて許すわけないけど!」
「いやいや!母さん!?スコルの話をまともに信じちゃダメですよ!?って今そんな状況じゃないですからね!?親と子が殺し合う驚愕しつつ感動あるシーンなのに!?」
ーーいや、殺気と言うより親バカオーラが一瞬ながら溢れ出ていた。
41話を読んでいただきありがとうございます。
中々フェンリルと蘇る記憶は終わりそうもありません(汗)
しかしながら、戦闘中に新たな魔法の使い方を思いつき、ここから本当の反撃が始まる (はず)です。
次回は近日中。お楽しみに!




