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双子獣人と不思議な魔導書  作者: 夜色シアン
第二幕・牙を穿て
34/85

2-18ひったくり

32話まで読んでいただきありがとうございます。

33話は、いつぞやのキャラが登場しますが……まさかの事態に陥ることに!


「こんな感じだよハティ。覚えたかい?」


「多分……」


「そうかい。まぁまた後で教えるとして、さっさと進むよ」


 手の上に灯された炎は一人でに動き、ハティの近くで白銀の床を溶かすほどに、力強く暑く燃え上がる。


 結果、少女達の周囲は常温となり、極寒の地(ニヴルヘイム)の街にたどり着くまで、寒さを凌ぐこととなる。


「ーーそれにしても、お前ら人狼があのフェンリルの子供とはな」


「う、ウォンさんも知ってるんですか!?」


「いや、まぁ知っているといえば知っている。なにせ王族や一部の人間を殺し、公開処刑されてるんだからな。ただどういう人物だったのかは知らん」


「公開処刑……てことは……」


「火刑……」


 ウォンが言う公開処刑は、少女達の脳にこびり付いたあの処刑。十字架のように組まれた木に括りつけられた実の親が、嘲笑うかのような人々の目を受けつつ焼き殺された、少女達のトラウマとなる処刑。それを思い出す度、少女達はきゅっと拳を強く握りしめ、嫌な思い出を見たくないと唇を強く噛む。若くして親を亡くした悲しみよるものだ。


 その様子を見た九尾は。


「……ウォン。この子達にその話は止めな。あの光景をこの子達は見てるんだから」


「そ、そうだったのか……それは済まない事をした」


「い、いえ……確かに思い出す度、胸が締め付けられてとても苦しいですが……」


「……仕方ないことなんだよ〜」


 二人の少女は、辛い思い出を強引に記憶の奥底へ閉じ込めると苦笑いを浮かべた。


 そうでもしなければ、苦の感情や辛い思い出に押し潰され、泣き崩れる。そんな気が思い出す度に、襲い掛かるからだ。


「お、もうそろそろ極寒の地(ニヴルヘイム)の街に着くな。ようやくセーフリームニルが食える……あぁ、この猪の味を思い出しただけで、ヨダレがでそうだ……早く行くぞ九尾!人狼!」


「はぁ……全くいい大人が子供みたいにキャンキャンと……ほらいつまでも悲しみに浸ってないで行くよ」


 悲しみに浸っていると、いつの間にか街が見えてくる。だが、一軒一軒が白銀の世界に溶け込むような純白の家……いや、正確には吹きすさぶ雪により外壁や屋根が白く染め上げられている家だ。ならば見つけにくいのではないのか、答えは否である。


 中央に聳え立つ一つの白煉瓦(ハクレンガ)で出来た細い塔がそこに街があると教えてくれる。もっとも、天候が荒れ狂い視界不良の場合には、肝心の塔が見えず、人々は彷徨うこととなるのだが。


「珍しいなこんな所に客なん……て、見つけたぁぁぁぁぁぁぁ!」


「うひゃっ!?」


 ようやく街に足を踏み入れようとした刹那。旅をしていた様子が垣間見えるほどよれたローブを着込んだ、一人の少年に出会うと叫ばれる。


 さらに叫んだ少年は徐ろに少女達に近づき、


「見つけた!零の魔導書!そして人狼!」


「な、なななななんでわかったんですか!?」


「魔力量!ってそうじゃなくて!その魔導書よこせ!」


「おい少年。まず事情を話すことがさきじゃないのか」


「ちっ護衛付きか……なら……〈加速(アクセル)〉!」


 少女達の目の前で、〈加速(アクセル)〉を使用する少年。すると一瞬にして神業と言わんばかりに、魔導書ホルダーから魔導書を抜き、セーフリームニルも奪い逃亡した。いわばひったくりである。


 しかし、ウォンが見せた〈加速(アクセル)〉よりは随分と遅く、追いつくことはたやす……くはなかった。街の中に入ったからこそ速度を落とし建物の間に入っていったのだ。


「私のセーフリームニルが……くそ!行くぞ茶人狼!」


 スコルはいきなりの事で驚いてはいたが、静かに頷くと少年と同じように〈加速(アクセル)〉の構えを取る。されども街中に逃げられ路地裏へと入られた今、どこにいるかなどわかるはずもない。


 故に少女はある事を思いつく。


「ハティ〜風の魔法使える〜?」


「風の魔法……あ、なるほど!それならあの紙に書いてあった魔法でも大丈夫ですね!」


 ハティもまた、スコルと同じ事を思いつき、すぐに詠唱を始める。


 いや、正しくは省略詠唱。それも地下で唱えたあの〈(ウインド)〉の省略詠唱。少女達がその魔法で何をしようとしているのか。単に魔法で作り出す風で、スコルとウォンの体を浮かせ上空から見つけ、風の力で一気に向かう魂胆だ。


 少女達の策略に気づく九尾も手伝おうと風を作り出すが、そう上手くいくものなのかと心配ではあった。だが、


「いた!北の方向!」


「北ですね!!」


 と、確認するように言うと、風の力を少女達の横に強く当てる。が、風の力で押し出された先は西。在らぬ方向へ吹き飛ばされるが、すぐさま九尾がフォローして北の方角へと飛ばしてやる。


「あんた……方向音痴なのかい……」


「す、すいません……」

33話を読んでいただきありがとうございます。

ツクヨミさん久々にご登場いただきましたが、まさかのひったくりをして行く悪い人でした。

それにしても真冬の街を高速で走るとか……滑らないんでしょうかね?


それでは次回!

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