2-17ニヴルヘイム
いつも読んでいただきありがとうございます。
32話はサブタイトルにあるとおり、極寒の地にINします。
ですがそこは年中マイナスを維持する氷点下地帯。そこでハティがある行動を起こすのですがーー
暫く北へ歩いていくと、いつの間にか地面が白く染まっていた。
「うぅ……寒い……」
振り返れば、白銀の世界に染まり切った大地にハティ達の足跡しか、残っていなかった。
「白銀の大地に入ったってことは、ここは死国領の極寒の地だね。もう少し歩いた先に極寒の地の街があるから頑張りな」
「あ〜九尾ずるい〜」
「ふっ……いいだろう?私の尻尾はこういうふうにも使えるのさ」
気温がマイナスを維持する極寒の地。防寒具なくしては、極寒の地を歩くことは出来ないと言われている。だが九尾は違う。
自らの九つの尻尾。それを器用に身に巻き付け、上着のように暖をとることができるのだ。しかしその様は丸くふわふわした毛糸玉。防寒具を着ていない少女達にとって羨ましいことだ。
されども、防寒具を着ていないウォンは九尾を羨むことはない。というのも動物と同じように体毛で全身が覆われているため、自然と寒さを防ぎ、かつ暖をとれる。
「はぁ……黒人狼。ここでなら魔法が使えるんだ。少しは頭を使え。それと早くこの猪を食べたいのだが」
「ここまで来たなら街まで行くのが妥当だろう?もうちょい我慢しな!」
ギラっと猪を背負うウォンは少女を睨む。が、早く猪を食べたくて仕方ないらしく、涎がぼたぼたと口から垂れ、にやけていた。
そんな彼女が伝えたかったのは、〈火〉を使えということ。確かに死国領域では魔導書の魔法を使う事が出来るうえ、禁忌となる魔法は一切ない。
「……あ!なるほど……〈火〉!」
「って馬鹿!お前さんの魔力で省略詠唱したらーー」
瞬間、少女達の目の前で小さな爆発が起きる。それは〈火〉ではなく、少女は見たこともない〈爆発〉。
だが、何故その魔法が発動したのかーー
「ゲホゲホッ……全く……あんたの魔力の量高いことすっかり忘れてたよ……」
「ハティ〜びっくりした〜」
「黒人狼……お前私達を殺す気か!」
いきなりの出来事に、ハティを責め立てるが、この事故は仕方の無いものでもあった。
「ハティ……言うの忘れてたけど〈火〉系魔法は魔力量に左右されやすい。あんたはまだ魔力の調整ができないんだ。その状態で省略詠唱なんてしたら、今みたいになるからね」
「は、はい……」
「とりあえず、詠唱付きでもう一度やってみな」
と言いつつ九尾、ウォン、姉妹のスコルですらも、九尾の尻尾に包まれ暖を取る形でハティと距離を取る。それは先程のように爆発されては困るからと、身の安全を確保するためだ。故か、ハティは少し機嫌を損ね、絶対に成功させるとやる気満々かつ、可愛らしく頬を膨らませた表情を見せる。
しかし、少女は〈火〉の詠唱は唱えたことが無い。ならばと、以前エリスから貰った紙を見て唱えるのだが……
「溶岩の如く熱く……って九尾さん。この詠唱文見てもらっていいですか?」
「ん?まぁいいけど……ってこれは……よく気づいたねハティ」
「いえ、なんか変だなって思ったので」
「なんの話ししてるの〜?」
途中で詠唱を辞め、少女は九尾の元によってくる。話からしてエリスから貰った紙に何か気づいたことがあるのだろう。だがそれは魔法を使うハティと九尾しか気づくことは無かった。
「これは最上級の魔法さ……さて、そうなると仕方ないね……よく聞いて覚えなハティ!」
流石エリス。この基礎魔法が書かれた紙ですらも、彼女の嫌がらせ。〈火〉はよく使うだろうと踏んで、その魔法だけを魔力消費が多い最上級の魔法と入れ替えていたのだ。
そして油断して唱えると、全く別の〈超爆発〉が発動し、少女達は死ぬ。そんなストーリーをエリスは思い描いていたのだろう。
だがこうして見破り、少女達は無事である。
再び唱える時間違えてしまわぬよう、九尾はふわりと身を纏うもふもふ尻尾を、後ろへ持っていくと、
「炎を纏う精霊達。今ここに炎を灯せ!〈火〉!」
エリスが書いた紙を持った手を突き出すと、短な詠唱を唱える。刹那、ボシュっと紙が一瞬で燃え尽きるほど強く、されども暖かく小さな炎が灯された。
最後まで読んでいただきありがとうございます。
エリスは本当に酷い人ですね〜。まさか基礎魔法が書かれた紙ですらも仕込んでいたとは……
しかしながら、当初考えていたエリスとは違いまして、書いてくうちに恨みを持たせようとこうなりました。
さて次回は近日公開です!