2-15アクセル
29話まで読んでいただきありがとうございます。
気づけば30話!そんなに書いたんだなって改めて実感しました。
さて今回の30話。等々、本格的に双子達の旅が始まります!まず先に向かうのは……龍国ではなく、最北端のーー
続きは本編で!
「あんた達から来たってことは、まとまったんだね?」
翌日、ハティとスコルはいつの間にか綺麗に片付けられている一階へと降り、九尾の元にやってくる。
それは覚悟が決まったから……いや、今後も含め何をしたいかを自ら決めたのだから。
「私は……私達は九尾さんの言う通り、強くないです……昨日も九尾さんがいなかったら死んでましたし……それで昨日考えて、まずは試練に挑戦する事に決めました。ただ、今の私達では力不足なので……魔法とか色々教えてください!」
「私からもお願い〜」
「……私がなんでこの家を綺麗にしたかわかるかい?」
いつもの如く葉巻を吸う九尾。少女達の決意を聞き届けると、口内に溜めた煙を吐き話題を変えてくる。
それも全く関係の無い話題。少女達はその言葉で改めて部屋を見渡す。だが、先日の死体や生存者がいないのと、そこにあったはずの机や椅子などがスッキリ無くなっているだけで、答えは見つからない。
「あんたらが先の言葉を言うと見越して、この家を空けようと思ってね。まぁ、昨日の件で暫く休館になるからどのみちこうなるけどね。さてと、すぐにユグドラシルの最北端……極寒の地に行くよ」
「龍国に行くのでは……?」
「この間満月の日だろ?今から行っても無駄だ、となると極寒の地に行った方がマシだろう?それよりもウォンが待ってるから早く行くよ!」
少女達はフードポンチョを羽織り、頭を隠すと九尾について行く。しかし、外に出ると頭を隠しているのに辺りから人狼だの、禁忌違反者だの、人殺しだの、冷たい目であることないこと言われる。挙句には、そこら辺に落ちてる小石やゴミを投げつける人もいた。
一度も人に頭や尻尾を見せたわけではないのに、こうして差別が行われるのは、国騎士が人々に人狼がいると注意喚起しているからである。
故に、ここ人の街で食材、雑貨などが調達できそうにないことは明らか。これ以上滞在しても怪我を伴いかねず、そのまま街を後にする。
「来たか。人狼もいるってことは、私も付き添いか……仕方ない」
「本当に嫌そうですね!?それと私はハティです」
「スコルだよ〜ウォンバさん〜」
「変な略し方をするな人狼!」
「え〜可愛いじゃん〜」
「そんな理由であだ名をつけるな!行くぞ人狼!」
ギラっと少女達を睨むと力強く地面を踏み締め前へ進んでいく。だが、決して怒っている訳ではなく、言われ慣れていない言葉を聞いた動揺によるもの。冷たく、どこか男の様な口調だが、彼女も乙女なのである。
ーー人の街を後にし数分後。少女達の目の前ーー正確には百メートルほど離れているーーには、一匹の猪が草を食べていた。しかしそれは魔物のセーフリームニル種。一定ダメージを与えなけば回復してしまう厄介な魔物かつ、レアな魔物だ。
「丁度そこに獲物がいるね。ただここじゃ魔法はまだ使えないから……ウォン!」
「わかった。さて茶人狼。まずは加速からだ。よく見てろ……ハッ!」
魔物の方へ狙いを定めつつ、ウォンはすっと右脚を下げ、これでもかと左脚に力を貯めていく。たった一秒後、力を解放した左脚で地面を蹴るとセーフリームニル種を越える距離まで突き抜けた。それも僅か一秒。時速三百を越える速さで駆け抜けたのだ。
「こんな感じだ!やってみろ!」
「無理だよ〜」
「ならお前は今すぐ家に帰れ!」
「い、嫌だ〜!」
「ならやれ!」
「鬼〜!ウォンバ先生の鬼〜!」
「鬼で結構!できないなら諦めろ!ちなみに加速は、足に力を込めるだけの超基礎だ!」
駆け抜けたのもつかの間、すぐに彼女は戻ってくるが、見せただけでやらせようとするスパルタ……いや理不尽な教え方だった。
しかし、それは思い込みに過ぎず、ちゃんとアドバイスする時はして、離す時は離す。飴と鞭のメリハリがなっており、理不尽とは言い難いほど、しっかりとした教育であった。
「うう〜ハティ〜」
「仲間に頼るな!万が一、単独になった場合、仲間など近くにいない!全て自分で解決しないとダメだ!さあ!早くしないと飯が無くなるぞ!」
「あれがご飯なんですか!?」
30話を読んでいただきありがとうございます。
今回登場したセーフリームニルは、実際に神話にいる猪の名前です。なんでも切っても煮ても焼いても、翌日の夕方には生き返る不死身な豚……じゃなくて猪だそうです。
でもそれが本当なら、この世のどこかにいる気がしますが……まぁ触れないことにしておきましょう。
さて次回「加速撃」です。〈加速〉を習得?したスコルはもう一つ新たな技を繰り出し、みごとセーフリームニルを……
詳しくは明日。お楽しみに!




