2-11キセル
25話まで読んでいただきありがとうございます。
前回は獣人が殺戮され、ハティ達が復讐心を抱きました。
そこに思い切り真実を九尾が言ってきて……第26話お楽しみください。
「意気込んでるとこ悪いけど、今のアンタらじゃ勝てないよ」
復讐心に燃ゆるハティとスコルの横から、噎せ返る程の煙と九尾の声が入り、少女達は噎せる。
「あぁ、悪かったね」
噎せている様子を見た九尾は獣人が何人も死んでいるのに冷静でいる。ましてや再び葉巻を吸い、笑みを浮かべている程だ。
「ちょっ!九尾さん!葉巻吸うの止めてください!」
「それよりも、国騎士を敵に回すのは本気かい?」
「……本気です。それに私達が力不足なのも承知の上です」
「私も同じ~」
「なら、今後のやることは決まりだね」
ジジジジジ……と葉巻を吸う度、みるみる燃えていく。葉巻の煙は吸引とともに彼女の口内に溜まり続け、再び白い煙を少女達に向け吐く。
先程よりも濃い煙だが、少女達に浴びせることに罪悪感はないようだ。
「あんたらをウチで雇う。そしてあんたらは仕事をしつつその身を鍛えな!」
「……そ、そんな暇は!」
「まだわからんのかい!このボンクラ!」
「ぼ……ボンクラ……」
「って何~?」
「頭が働かないマヌケって言ってんだよ!全く……とりあえず初仕事だ、死体の処理だね。息のあるやつと死んでるやつを分けな!」
葉巻を吸い激怒する様は、相変わらず違和感しかないものの、彼女なりの考えがあるようだ。しかし、急に侮辱され激怒された少女達は戸惑いを隠せない。ならばと彼女は少女達を睨むと。
「早くしないとそのまま外に放り出すよ!」
「えっ!?わ、分かりました!?」
家を失ったからこその脅し。言われたことをしなければならないと少女達に半ば強制的に埋め込む。
それからかれこれ数分後。外を見れば夕日が差し上る時間帯だが、なんの為に分けているのか知らされていない少女達は、死体分けに疑問を抱きつつ仕分け終わる。すると未だに鉄と生臭い匂いが交差していたのにも関わらず、死亡者が少ないのが見て取れた。
しかし軽症の獣人はいない。今にも息絶えそうな獣人が山ほどおり、怪我をした獣人は皆、鮮血が溢れ続けていたり、骨が折れていたりなど、見るからに重症なのだから。
「わ、分けましたけど……」
「何するの……?」
言われるがまま、死体分けした少女達は精神的に疲れ、まだ夕刻なのにも関わらず一日分の気力を使い切りバテていた。
そんな少女達に喝を入れるため、
「甘い!そんな体力じゃ確実に死ぬと思いな!」
煌めく透明の雫を額に浮かべ、息を荒らげる少女達を見下すように机に登った九尾は、強い気迫を放ちつつその言葉を吐き捨てる。
「そしてハティ!よく見てな!これはあんたが覚える……いや覚えないといけない魔法だ!」
ふわっと机から降りると尻尾に隠していた組み立て式の焦茶キセルを取り出した。
キセルは葉巻同様、煙草の煙を身体に取り込むための道具。しかし彼女は葉巻一筋が故に、キセルは使ったことが無い。そもそも煙草吸うを吸うわけでは無い。ならば何故取り出したのか。
実は使ったことが無いと言えど、口にくわえ、キセルで煙草を吸ったことがないだけ。それ以外の用途では使っている。雁首、羅宇、吸い口を組み立てると、片手で軽く持ち、スっと前へ向ける。
この瞬間、キセルは杖となる。
「大地深く眠る緑が芽を出すように、生命の加護を……〈大回復〉!」
杖に見立てたキセルに意識を集中させ、詠唱を唱える。すると火皿の先端に淡い緑の光が灯り、意識がある者全てにその光の雨が降り注ぐ。
緑といえばやはり回復をイメージするが、実は種族によって見える色は異なる。
例えば地下の街の住民には大地の茶色に見え、火山の火口に居ずる竜人の街の住民には火を主張する赤く光る。ならば人の街の住民は、透明……つまり白だ。人々からするとこの魔法は、色が付かずただの光として見える。
また、九尾が使った回復魔法は、誰が使ってもここ人の街では禁忌にならない。しかしその事実は少女達は知ることも無く、
「魔法を使ったらまたゼウスさん飛んできますよ!?」
「この魔法は禁忌じゃないよ!全く……全部が全部禁忌だったら困るだろう……ともかくだ、あんたらを明日から鍛えてやるよ、覚悟しな!」
「ひ、ひゃい!」
別に怒られてはいないものの、言葉の威圧が少女達を襲い、今後の事を勝手に決められてしまっていた。
「さて、そうと決まれば、今度は掃除だよ!ほらさっさと動く!タダでは住ませないし、教えないからね!」
ーー今後の事を決められただけではなく、獣人の家で生活することに……否、仕事することになった。
最後まで読んでいただきありがとうございます。
九尾って本当に何者なのか不思議ですね。
さて次回、久々の英語タイトル「Gibbous Moon Night①」明日更新です!