2-10怒り
24話まで読んでいただきありがとうございます。
傷をつけられさらに殺意が増したエリス。絶対にハティを仕留めるべく魔法を使うのだが……ハティは無事なのか!第25話
「良くもやってくれましたね……」
殺気が篭った言葉を吐き捨てると、赤い雫が垂れる腕をハティの前に突き出し、魔法の詠唱が始めた。
「闇をも焦がす天聖の光。幾千の星屑は集いて天を貫く。天啓の魔法、第一目〈星屑槍〉!」
「〈反転〉!」
ーーそれは一瞬の出来事。
彼女が前に突き出した手から、閃光のように強く輝いた光がハティの脳を、胴体を貫く……はずだった。
というのも、彼女が唱え終わる瞬間に、薄く透明の、されども脆くはなく光を反射させるほどに煌めく、鏡のような一枚のガラスが現れ、〈星屑槍〉を天井を貫く形で天高く反らされたのだ。
しかし、それを唱えたのはハティでも、九尾でも無い。
「エリス!」
獣人の家の入口から轟く太い声。荒い吐息。太陽に当てられたような熱い熱気。全てを貫くような鋭い視線。それは紛れもなく彼女達が知る人物のもの。まさかと入口へ視線を移せば、やはり巨漢のゼウスが息を荒らげこちらを睨みつけていた。
だからとて、彼女の殺気が篭った目は変わらず、されども止められたことに苛立ちを覚え、
「あ、ゼウス先輩。いいところで止めないでくださいよ。せっかく仇を討てたのに」
その言葉を聞き、彼は息を深く、そして大きく吸い込むと、
「この……馬鹿野郎が!!!!」
その声で建物が揺れ、ガラスは割れ、鼓膜がはち切れそうな大声を、エリスに向けて放つ。獣人達は彼が息を吸い込んだ瞬間から無意識的に耳を塞いでおり、大事には至らなかった。しかし彼の迫力に息も、声すらも忘れてしまったように黙り込んでしまう。
「そんなに怒らないでくださいよ。それと今トドメさそうとしてるの人狼ですから」
「そんなこったァ今は関係ねぇだろ!……いや、人狼なら関係あるかもしれねぇけど、他の奴らはどうすんだ!」
「あーもう、わかりましたよ……」
エリスは耳を塞いでおらず、ましてやゼウスの激怒に慣れているのか驚きもしていない。しかしこれで以上怒らせれば無事ですまなくなることなど仲間である以上わかりきっている事。故かハティ達を殺すのを諦め、短い溜息を吐くと、
「ハティ、スコル。貴女達は人狼です。人狼がこの街にちゃんと住めると思わないことですね。あ、そういえば貴女の家を焼くように頼みましたし今頃全焼してるんじゃないですかね?」
「なっ!」
「さっきの火事はお前の仕業かエリス……てめぇちったぁ周りのやつ考えやがれ!おかげで一般民にも被害いってたんだぞ!」
「周りの人?そんなの知りませんね。私は人狼が憎いだけです」
“今”殺すのを辞めただけで、彼女の瞳は未だ殺気がこもった鮮血のように透き通った瞳でこちらを睨みつける。
それに彼女の憎しみ故か、判断が疎かになり、国を護る騎士だと言うのに全く国を護れず、害もない一般民を傷つけている。
これで本当に国を護る騎士なのが驚きな程だ。
「……とりあえずエリス。お前は暫く牢に監禁だ。それとハティとスコルだったか?確かに人狼なら早急に対応しないといけねぇ、その魔導書もな。だが、まぁ……こいつが今回迷惑かけたみたいだからお前らが人狼だってこと、そして禁忌魔法を使ったことは不問にしておく。次捕まったら死ぬと思え」
「いっその事、今死ねばいいと思います」
「お前は口を出すな」
ゼウスに服を引っ張られる形で引きずられエリスもその場を後にする。しかし、エリスが言った放火。ゼウスの様子を見る限りでは本当のようだが、彼女達は信じたくない様子だ。
せっかくこの地に引っ越してきたというのに一日で家が無くなるのだから仕方ない。
「……あんたらとりあえずうちに泊まってくかい?」
漸く静まり返り、鉄の匂いと、生臭い匂いが交差する部屋の中、彼女達は耳から手を離した。
「そ、そうするしかないですよね」
「そうだね~……それにしてもハティ。多分同じこと考えてると思うけど、エリスどうする~?」
「スコルさん。私と同じこと考えてるならどうしたいか、わかりますよね……?」
人を初めて恨んだ双子はお互いを見つめ合い、息を揃えると、
「「お母さんと同じように燃やす」」
全く同じ言葉が、重なり合い響く。彼女達の目は母親を殺された恨みと、関係の無い人に、獣人に危害を加えたことに対する怒り。その二つで満ちていた。
だが、今の彼女達では到底勝てそうにないことなど、二人も重々承知している。しかしそれでもなお彼女達は、エリスに罪を償わせるべきだと、やる気に満ちていた。
25話を最後まで読んでいただきありがとうございます。
なんと同じ国騎士のゼウスさんが助けに入りました。ただ助けたのはエリスを連れて帰るため。
そして家が無くなった双子達は同族を殺された怒りとフェンリルを殺されてる恨みで復讐を決意。その後は次回『キセル』で!